観測者〜森に抗い、作りし者〜
「……うーん。面白くないわね」
外界から切り離された『特等席』で、女は不機嫌そうに唇を尖らせた。
モニターの向こう側、カメラ好きの餓鬼――ダルクの方は、あれから進歩もなく無残に殺され続けている。そして期待していた軍人の男、カンラはといえば、手に入れた安堵に溺れて民家で泥のように眠り続けていた。
「はぁ……これじゃあ、ただ死なせて放置しておくのと大差ないじゃない」
溜息をつき、彼女は空中に浮かぶ情報を気だるげに操作する。だが、その指がふと止まった。視線の先に映るのは、森を静かに徘徊する「あの男」の姿だ。
「……それにしても、あいつよ」
あの鬼。一体何者だというのか。
彼女が振るう「やり直しの力」に感づいているような素振りを見せ、理外の力で命を刈り取っていく。とても、ただの人間とは思えない。
彼女は少し、その正体を探ってみることにした。
『――ピーッ』
虚空に無機質な電子音が鳴り響く。しかし、観測者である彼女以外にその音を聞く者はいない。この部屋には、最初から彼女一人しか存在しないのだから。
検索結果が彼女の瞳に映し出された瞬間、その顔に驚愕の色が走った。
「あの鬼の手首の模様……嘘でしょ? まさか、数百年前の『和国』と『大陸』との戦争で、たった一人で数十万の兵を斬り伏せたとされる英雄――『般若武者』?」
データが示す真実はあまりに重かった。なぜ、そんな伝説の怪物が現代の、この閉ざされた森に現れたのか。
「……困ったわね。あの刀には、私ですらそう簡単に逆らえないわ」
女は忌々しげに髪をかき上げた。自分の盤面に、制御不能の「死神」が紛れ込んでいるようなものだ。
しかし、彼女の唇は、わずかに吊り上がった。
「……いいわ。もう少し傍観してあげましょう。この『英雄』が、私の可愛い駒たちをどう料理するのか、じっくり見せてもらうわ」




