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虫森  作者: 小円説
虫森〜森のざわめきと鬼武者の目覚め〜
4/10

日常崩壊〜森の進化と希望との出会い〜



(確か、さっきのループではあの怪物はあそこにいたはずだ……)


記憶を頼りに慎重に歩みを進めると――いた。

「……何をやっているんだ?」

木々の隙間から覗き見ると、鬼武者の足元に村民が横たわっていた。助けなければ。そう直感し、反射的に駆け出そうとしたその瞬間だった。


『――ドサッ』


鈍い音と共に、目の前の村民が「袈裟斬り」によって鮮やかに真っ二つに分断された。

「はぁ、はぁ……っ!」

絶望的な実力差。見つかれば、今度こそ確実に殺される。

(やっぱり無理だ。俺にはできない、帰ろう……)

軍人としての誇りすらも、圧倒的な死の予感に塗りつぶされていく。


『――ゔぁぁぁぁーん!!』


また、あの咆哮だ。

あの怪物が発しているのかと思ったが、音の方向が違う。北の端にいる俺の耳に届いたのは、森の右端――湖の方角からの響きだった。

(まさか……もう一体、別の『何か』がいるのか?)

恐怖で足がすくみ、思考だけが空回りする。だが、幸か不幸か、その隙に鬼武者は音も立てずにその場から姿を消していた。


「い、今のうちにバッテリーを……!」

この広大な森で、どこにあるかもわからぬ予備電池。しかし、俺は導かれるように「下降ポイント」へと向かった。

そして、それはあった。


積もった落ち葉の上に、場違いなほど唐突に置かれたバッテリー。

「……あった。これで、民家で通信して待機すれば、いつか帰れる」

希望を掴み取ろうと、バッテリーへ手を伸ばした。


『――ガシャン!!』


「いっ、痛ええぇっ!!」

凄まじい衝撃が足を襲った。トラバサミだ。なぜこんなところに? 猟師の仕業か?

いや、違う。そう直感した時には、俺の身体は「奴」に掴み上げられていた。


「……お前は、斬ったはずだ」


鬼武者が、喋った。

「あ、ああ、あああ……き、きき、ききいっ……!!」

パニックに陥った俺は意味を成さない悲鳴を上げる。目の前の怪物は、俺が殺された記憶を持っているのか?


「……あの『女』の力か。また殺しても復活するのか?」


鬼武者は俺を値踏みするように見つめる。その手首には、不気味なドクロのマークと、『659721』という謎の数字が刻まれていた。

「あの女だと……? 知らねえ、離せっ!」

「……まあいい。とりあえず、殺すか」


無機質な言葉を最期に、世界が反転した。

首をはねられた俺の意識は、再び闇へと放り出された。


『……うーん。少しも進まないから、面白くないわね』


暗闇の中で、あの女の声が退屈そうに響く。

『いいわ。バッテリーだけは、持たせてあげましょう。……次は、もう少し楽しませてね?』

「ハッ……!」


また、あの冷たい畳の匂いと、静まり返った民家の空気が俺を迎え入れた。

何度目かの回帰。だが、今回は決定的に「異常」だった。


(……重い?)


握りしめた右手に、確かな重量感と冷たい金属の質触があった。恐る恐る手を開くと、そこには先ほどのループで死に際まで追い求めていた、あの予備バッテリーが鎮座していた。


「あ……あはは……あった。持ってる、俺、持ってるぞ……!」


本来、死と共に失われるはずの物品。それが手元にあるという事実は、物理法則を超えた何者かの介入を意味している。だが、今のカンラにそれを疑う余裕はなかった。

これでもう、あの狂った鬼武者が潜む森へ戻らなくてもいい。

あの怪物に怯えながら落ち葉を漁る必要もないのだ。


「これで……やっと、連絡が取れる。ここから出られるんだ……」


張り詰めていた緊張の糸が、音を立てて切れた。

数えきれないほどの死、首をはねられた衝撃、胸を貫かれた痛み。それらの精神的負荷が、一気に泥のような眠気となって押し寄せてくる。

カンラはバッテリーを胸に抱きしめたまま、崩れるように床に倒れ込んだ。


(次に目が覚める時は……この呪われた森の外であってくれ……)


薄れゆく意識の端で、彼はただそれだけを願った。

それが、残酷な「観測者」によって与えられた、束の間の休息であるとも知らずに。

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