新たな日常〜森で起きた新たな絆〜
時は少し遡る。
カンラと少年が、あの理不尽なシステムエラーによって突如引き離される、その直前の夜のことだ。
「……はぁ。流石に、緊急事態とはいえ少し言い過ぎたか」
闇夜の中、カンラは小さく息を吐いた。
目の前で背を丸めて眠っているのは、本来なら戦場など知らずに生きるべき、ただの幼い少年だ。家族を奪われ、日常も友達もすべて失えば、心が壊れて絶望するのは当たり前のことだった。
(そういえば、あの子の母親はあの湖の化物に食われたんだったな……。結果的とはいえ、敵討ちは果たせたということか)
「……なぁ、おい」
短く呼びかけてみるが、返事はない。微かな寝息が聞こえてくるだけだ。
「寝ているみたいだな。……よかった」
極限のショック状態に陥り、眠りすら奪われるのが精神にとって一番深刻なダメージになる。軍での過酷な経験から、カンラはそれを嫌というほど知っていた。
ふと、カンラの脳裏にある疑問がよぎる。
(家族のこと……母親の最期は聞いたが、そういえば『父親』はどこへ行ったんだ?)
思い返せば、これまでの短い道中、少年は一度も父親の存在について口にしていない。
「……まあ、起きたら聞いてみるか」
カンラは抱えていた銃の冷たい感触に触れながら、静かに目を閉じた。
極度の緊張が、少年が眠りについた安堵によって少しだけ解けたのだろう。泥のような疲労が脳を覆い尽くし、カンラは次の瞬間には深い眠りへと落ちていった。
――この安らかな眠りの直後、あの耳をつんざくようなサイレンが鳴り響き、少年が「エラー」として消去されることになるとは知る由もなかった。




