日常崩壊〜壊れた森と英雄の壊〜
「はぁ、はぁ……ッ! また、ここか……」
嫌な汗が全身から噴き出す。次もまた戻ってこれる保証なんてどこにもなかった。だからこそ、なるべく死なないように、慎重に立ち回っていたはずだった。
だが、出発の直前に戻ったのだとすれば、「コード07」が落ちてくるまで、あと一日程度の猶予はあるはずだが。
「早く、出発しなくては……!」
――【 ビー、ビー、ビー!! 森への攻撃を確認。大型ミサイル接近。危険度、極大 】
「……なんだと!?」
早すぎる。計算が合わない。俺が一つ前の『生』で目撃したよりも、あまりに早すぎる着弾だ。
俺は狂ったようにカレンダーを、時計を確認する。
「西暦2150年8月2日……間違いない、一日前だ。なのになぜだ!? なぜ今落ちてくる!!」
混濁する思考。しかし、絶望を咀嚼する暇すら与えられない。
逃げる? どこへ。あれはこの島のすべてを塵に帰す、逃げ場のない終焉だ。
死へのカウントダウンが刻一刻と進む中、俺はただ、空から死神のように降り注ぐ「コード07」を見上げることしかできなかった。
「な、なんだ……あれは」
絶望の銀光に向けて、一筋の鋭い影が投げつけられた。刀だ。
だが、あらゆる迎撃対策を施された「コード07」に、そんな原始的な投擲が通じるはずもない。刀は火花を散らして弾き飛ばされる。
『――矮小な小僧どもが。ミサイルごときで、この我を倒せるとでも思ったか』
地を這うような、凄まじい圧を持った声が響いた。
その直後。
――ドォォォォンッ!!
島全体が震えるような地響きと共に、あの「鬼武者」が弾丸のごとく天へと跳躍した。
重力を無視したその飛翔は、一瞬でミサイルの射程内へと到達する。
『切り捨ててくれるわッ!!』
閃光。
抜き放たれた刃が、空を、空間を、そして軍の誇る最終兵器を両断した。
直後、上空で凄まじい爆発が巻き起こる。天が割れ、太陽がもう一つ現れたかのような光熱。しかし、それがあまりに高い高度であったため、地上に届いたのは激しい衝撃波だけだった。森は、焼き尽くされることを免れたのだ。
「な、なんて奴だ……」
ミサイルの直撃すら想定した、あの最恐の装甲を一撃で断ち切るなど。
不可能を可能にするその背中は、たとえ敵であろうと、凄惨な殺人鬼であろうと――この瞬間だけは、確かに「英雄」の輝きを放っていた。
俺は、震える右手をこめかみへと掲げていた。軍人として、抗えぬ強者への敬意を込めて、無意識に敬礼を捧げていたのだ。
だが、代償はあまりに大きかった。
流石のあの鬼とて、至近距離での大爆発には耐えきれなかったらしい。
「……あれか」
爆炎が空を焦がし、その衝撃が収まり始めた頃。人型の、真っ黒に焼け焦げた「何か」が、力なく上空から剥がれ落ちていくのが見えた。
それは重力に引かれるまま、森の中心部へと吸い込まれるように墜落していった。
驚愕の連続だった。だが、混迷を極める状況の中で、少しずつパズルのピースが埋まり始めている。真実は、あと少しで手に届くところにあるはずだ。
「行くか。……南へ」
俺は敬礼を解き、再び足を踏み出した。
死神が去り、火の粉が舞い落ちる森を抜け、未知の領域である「南」を目指して。
少し短いですが、きりが良いのでここで終わります。




