3-1
何か良いものを作りたいという思いはある。俺はアクセサリーに興味があるわけではないのだが、自分の価値を反映させた作品をこの世に送り出したい。俺の実存を主張したい。その先に何があるわけでもないのだが、生きてもいいんだと分かるのだろう。今の俺は屍さながらだった。
「なあ、森下はどんなやつが格好良いと思う?」
「俺か? 俺みたいな奴。俺以外の俺。俺はダサい」
「またなんか難しそうなことを言い出しやがって」
「そうか? 同族嫌悪はしていないはずなんだが、俺自体はそんなに好きではないってところかね。いや、俺は俺のこともまあまあ好きだし、世界で一番格好良いとも思うんだが、それが人に伝わらないってのも知っているだけだ。芸能人がどうした、多くの人に広く浅く認識されているだけじゃないか」
「いや、そいつを推しだというくらいに深く愛している奴もいるぜ。お前にはそういう奴がいないじゃねえか」
「ま、そうだけど」
なぜ俺は認められないんだ。知られないんだ。確かに何かができるわけでも、何かをしたいわけでもないが、それでも人より前に出たいと願わないわけではないし、俺の情熱があれば全てを覆い尽くせると信じている。それは嘘ではない。だが、世界は良くはならない。もう一つの物語を増やすだけ。
それなら正しい道に導いてあげられるやつになれれば良かったのだが、何が正しくて何が間違っているのか。一歩前進できたやつが等しく偉いとすれば、俺は威張れないし、つまらない。同じ神を信じている仲間と競争するという考え方にも疲れるだろう。成果主義に至っても、魂は満足できない。
ああ、俺は変わりたいよ。でも変われないよ。認めるよ。俺の負けだ。これでいいだろ。あとは野となれ山となれ。だが俺の人生は続く。消滅するわけでも天に挙げられるわけでもなく、同じような日常を強要されるのだ。それもまた辛いこと。生きるって辛くね? いやそれほどでもない。
自殺する前の文章を書いているつもりはないのだが、一つの証言として俺の生きた証を残したいのだ。これは真実だと信じるもののためにあるのかも知れないが、虚構の中にこそ真実の輪郭というのがあるはずだった。だから俺は英雄物語が好きだったかも知れない。自分がそうなれないと知っていながら。
都合良く全てを乗り越えていけるほどこの世界は俺に甘くないのだが、完全に手詰まりというほどでもない。俺が今もって生きているのがその証拠だったし、恐るべき存在に感謝するほどでもあった。いやその感謝というのも形式的なものかも知れないが、本当の運命が何なのかを考えているだけなのだ。
俺はこの先老人になるまで生きていかなければいけないというのか? そのために何をしなければいけないというのか。何ヶ月も同じようなことを続けられるほど俺は忍耐があるわけではないが、数年前にやっていたことをまたやり出すくらいには飽きないのかも知れないから、まあ丁度良い塩梅かも知れない。
生きているのはどうしてこうも不思議なことなのだろう。俺には生きる価値は確かにあったし、何のために生きているのかも自分で見つけ出すこともできるはずだった。昨日まで来ていたメッセージが今日来なくなったところで何を悩む必要があるというのか。俺は自分のやるべきことを続けるぞ。
それはそれとして、怠惰なんだ。悪魔なんだと自分を悪に位置付けて言い訳に必死なのもダサいなと思った。そう思えるだけ善人としての素質もあるのかもしれないが、善人などいない。絶対的な基準の前には全てが悪だった。それをあだ名にできるほど極端なやつなのが俺なのだ。
怠惰だからどうした。悪魔だからどうした。俺は生きる意味を見出せずに踊っているだけだぞってな。意味も分からないと言われて、苦しんでいるのが本質だっただろうか? ファンタジー小説でも書きたかったよ。しかもリアルな感じで人が死んでいくのを止められない悲しみの中に。
そうなんだ。現実は苦しみでしかない。この世は地獄に等しい。心は荒んでいる。俺はもうどこにも行けない。底辺を彷徨って、網に掛かるのを待っているだけ。チャンスは向こうから来るものではなかったから、探しに行った方が良いのだが、俺はそれを成功に繋げられるほどの能力がない。
なんでそんなに絶望しているんだ。だが俺には既に平安がある。ストレスはない。だからいいじゃないか。生きたって。死ぬ必要はない。どうせいつか死ぬんだ。その時を早める必要も遅める必要もない。ただ日々を一生懸命に生きていく。それほど素晴らしいことはないんじゃないの?
ただ問題は生きようと思っても思わなくても生きてしまうのもまたただの怠惰だということ。俺は勤勉になりたかったよ。報われるならな。だがそんなに上手く行くほどイージーでもないんだ。ゲームのように生きられる奴が羨ましいよ。俺の脳の構造を根本的に変えなければ立ち行かないと知って。




