072「セルティア王国王太子『ジェリコ・セルティア』①」
「やってられるかぁぁぁ!!!!」
バキィィっ!!!!
男はそう叫ぶと、腕と足を縄で縛られ身動きが取れない『殴られ役』として連れてこられた死刑囚の頭を木刀でかち割った。
「ご、ごふっ⋯⋯」
男の頭をかち割った木刀はその勢いで折れると、その男は頭から大量の血を流しながらフラフラとしていたがとうとう床に突っ伏してしまった。
「ふぅ⋯⋯ふぅふぅ⋯⋯ああぁぁ、ムカつく! 何で俺が『頭のおかしい父上』にここまで自分を犠牲にして言いなりにならなきゃいけないんだよ。クソがぁぁぁ〜〜っ!!!!」
そんな言葉を吐いている男の名は、ジェリコ・セルティア。
セルティア王国国王フィリップ・セルティアの息子で次期国王が約束されている男。三兄妹の中で父フィリップから溺愛されている。故に毎日、ジェリコはフィリップに毎夜呼ばれて愚痴聞きをさせられていた。
「ちくしょう⋯⋯一体、俺はいつまでこの茶番に付き合わなきゃいけないんだっ?!」
荒い息を立てながら、拳をわなわなと震わせるジェリコ。
父フィリップとこのような関係になったのは今から10年前に遡る。
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10年前、私が9歳の頃——それはたまたま二人が話をしていたのを聞いたことから始まる。
夜、トイレに行った帰り、ふと父の書斎に目を向けると窓から電気が点いているのに気づいた私は「父上はまだ起きているのか?」と気になって父の書斎へと向かった。
父の書斎に着くと、扉が開いていたので中に入ろうとしたとき、部屋からやり取りが聞こえた。
「⋯⋯というわけで、陛下。この法案にサインをお願いします」
「えー? でも、僕よくわかんないんだけど? これにサインしてもいいの?」
「大丈夫です。私のほうで全部うまくやっていますので。陛下は何も考えなくても大丈夫です」
「ふ〜ん、そうなんだ。じゃあ、よろしく〜」
それは、父フィリップとヴェントレー宰相のやり取りであったことがすぐにわかった。しかし、その話の内容がどうも『異様』に感じた私は後日、ヴェントレーにそのことを問い詰めた。
「ヴェントレー。お前が以前夜中に父の書斎で話していたのを聞いたぞ。貴様、父を利用して何をしている?」
私はヴェントレーが父を利用していることに気づいたのでそのことを指摘した。もし、否定するようなら追求してヴェントレーの悪事を暴こうとまで思っていた。しかし、
「はい。陛下を利用してこの国の舵取りを行っております」
意外にも、ヴェントレーはあっさりと父上を利用していることを認めたので私は思わず狼狽えてしまう。
「なっ⋯⋯! お前、よくも抜け抜けと⋯⋯! 自分の言っていることがわかっているのか、ヴェントレー!」
しかし、私は狼狽したことを悟られないよう、すぐさまヴェントレーを非難した。しかし、
「ええ、もちろんです。私は陛下を利用してセルティア王国を動かすよう⋯⋯前国王バルザック様から指示されておりますので」
「⋯⋯え? お祖父様⋯⋯が?」
と、ここでまさかのお祖父様である『バルザック』の名前が出てきた。
すると、ヴェントレーは父フィリップの父親である前王バルザック・セルティアの話を始めた。
それは、父フィリップが前王であるバルザックの暴力によるしつけで『精神年齢が幼稚化した』ということと、フィリップの子供達が成長し、フィリップの代わりに王位が継げるようになるまでヴェントレーが現政権を維持したまま国の舵取りをするように指示された⋯⋯という話だった。
たしかに、ヴェントレーの言う通り、父のあの子供っぽい言葉や態度は普段から「おかしい」とは思っていたが、まさかそれが祖父の暴力によるトラウマだったと聞かされた私はかなり強いショックを受けた。
しかし、それ以上に現在のこの国の政治がヴェントレーが父フィリップを傀儡として運営していたという事実が父の『心の病気』以上にショックだった。
しかし、ジェリコは「気を強く持たねば⋯⋯」と自分に言い聞かせ、大きなショックを受けていたが何とかすぐに立ち直り、
「で、では、父上にはすぐにでも王位を退いてもらい、私に王位を譲るよう⋯⋯そう提言してくれ、ヴェントレー」
と、ヴェントレーに進言した。しかし、
「いえ、それは難しいでしょう」
とは、ヴェントレー。
「なぜだ!?」
私が理由を聞くと、ヴェントレーがゆっくりと諭すように説明をする。
「陛下は精神年齢が幼稚化したとはいえ、気が触れているほどではございません。それに精神年齢が幼稚化したとはいえ、それなりに判断能力もございます。実際、このような症状が判明した後、私から陛下に退位を進言しましたが駄々をこねる形で断られました」
「バ、バカな⋯⋯!」
「陛下は精神年齢が幼稚化したとはいえ、自身が王であることを自覚しているようです。ですので、下手に退位を促すとかえって王位に固執してしまうことでしょう⋯⋯」
「で、では、どうすればいいというのだっ!?」
「陛下にはこのまま王のままでいてもらい、今後は私だけでなくジェリコ様と共に陛下を傀儡していけばいいかと⋯⋯」
「私と⋯⋯?」
「ええ。正直、私としてもジェリコ様に王位を継いで欲しいと思っているので⋯⋯」
「なぜだ?」
「ジェリコ様は現在の『既得権益貴族との関係性』を必要だと思っているでしょう?」
「っ!?」
「イフライン・レコード/IfLine Record 〜ファンタジー地球に転移した俺は恩寵というぶっ壊れ能力で成り上がっていく!〜」
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