073「セルティア王国王太子『ジェリコ・セルティア』②」
「ええ。正直、私としてもジェリコ様に王位を継いで欲しいと思っているので⋯⋯」
「なぜだ?」
「ジェリコ様は現在の『既得権益貴族との関係性』を必要だと思っているでしょう?」
「っ!?」
「図星⋯⋯のようですね。いえ、いいのです。それでこそ私が求めている『王の資質』なのですから」
「⋯⋯ヴェントレー」
「前王バルザック様が私に傀儡を指示したのは現政権の維持⋯⋯つまり『既得権益貴族との関係性の維持』です。そして、それはフィリップ様では到底不可能ですし、同時にまだ成人にも満たない現在のジェリコ様でも無理です」
「⋯⋯くっ! 確かに」
「現在はまだ既得権益貴族に勘付かれてはいませんが、勘付かれるといつ手のひらを返してくるかわかりません。既得権益貴族は国に忠誠を誓っているわけではなく、自身の保身しか興味がない連中ばかりです。ですので、隙を見せることは絶対にできません。⋯⋯わかりますね?」
「⋯⋯ああ」
そう。この国は前王バルザックの時代から腐敗政治が進んでおり、今ではそれが酷い有様である。そのため、その腐敗政治の状態で既得権益貴族に隙を見せるということは、私の次期国王はおろか、我ら王族もろとも追放させることさえやりかねない。ヴェントレーはそれを言っているのだ。
「もちろん、このまま既得権益貴族にバレずにフィリップ様を傀儡し続けるのは難しいので、ジェリコ様が学生を卒業し、成人するタイミングで王位を継承することを考えております」
「成人⋯⋯か。つまり、あと10年待てと?」
「はい」
(たしかに、既得権益貴族と対等にやっていくには『成人になること』は最低限必須か⋯⋯)
「いいだろう。それまで待ってやる」
「ありがとうございます。あと、できれば、それまでに陛下とは密に接していただき、関係性を深くしていただければ、私のほうから陛下にジェリコ様に王位を継承させることが容易になるかと思いますので、その辺どうかご協力いただければと⋯⋯」
「わかった。それくらいやってやる」
「ありがとうございます。ジェリコ様」
そうして、私はヴェントレーの提案どおり、その日から父上と現在のような『愚痴聞き』をするような関係となった。たしかにそのおかげで父上から溺愛されるようになり「次期国王はジェリコだ!」と言われるほどとなったが、正直『幼稚化した父』と話すのは苦痛でしかなかった。
ちなみに、父上は私のことを溺愛するようになった頃から、普段は『僕』という一人称を使うのだが私と話すときだけ『私』と言い方が変わった。ちなみに、下のレオンハート⋯⋯レオやミーシャには普段どおり『僕』という一人称での話し方をする。
ヴェントレーの話では、父上が意識してか無意識かはわからないが、私だけを『息子』と認識しているのではないかとのことだった。たしかに私以外の⋯⋯弟や妹と話すときは今でも『僕』という一人称を使うので以前の父上と変わらない。
つまり、父上の中ではもはや「私以外に息子はいない」ことになっているのかもしれない。
ただ、これは私にとっては都合が良かった。なんせ、そうであればもはや次期国王が私であることは揺るぎないのだから。
しかし、気になるのはレオもミーシャも父上の『幼稚化』は気づいているだろうが、いっこうに私やヴェントレーに何も聞いてこない。もっと言えば、私とヴェントレーで父上を傀儡していることに気づいているようにも思えるのだが、それについても一切そんな素振りは見せない。
「気のせいか⋯⋯?」とも思いたいが、しかし、あいつらがそんなバカじゃないことはわかる。特にレオは俺と同じくらいに聡いし、頭が回る。故に、あいつらはわかっていながらあえて何も言ってこないのだ。
ただ、前に一度だけレオが俺に「こんな貴族中心主義の腐敗政治が続けば、いずれ国は滅びる。既得権益貴族をどうにか排除しなければ⋯⋯」と言っていた。
それを聞いた俺はレオに心底呆れた。「全く、青臭いにも程がある」と。
貴族との関係性を強めれば強めるほど国は豊かになっていくものだ。そうして、国力を高めていけば、いずれグランザード帝国をも凌ぐ大陸一の国家へとなれるのだぞ! そんな偉業を叶えるためには民の犠牲は当然であろう! なぜそれがわからぬのだ!
俺はそんなレオに「綺麗事や理想論しか並べないお前とは話にならない」と言って切り捨て、それ以降あいつやミーシャとは口も聞かなくなった。
まったく、腹が立ってしょうがない。
この世界には『貴族』という国を従える王族にとって『益虫』にも『害虫』にもなる存在がいる以上、そんなレオのような『民によりそう政治』など空論に過ぎん!
政治は力だ。そして力とは権力。そして権力とは貴族を統べることにある。
そして、その貴族を統べるほどの力を手に入れて初めて『民に寄りそう政治』は可能となるのだ!
レオやミーシャの言っていることはわからないでもないが、しかし奴らは甘い! 甘過ぎるのだ!
それを分からせるためにも、俺が成人となった暁には王位を継承して証明してやろうと思っている。
それまでは父上の『愚痴聞き』や『依存』にも付き合う。⋯⋯それもこれも成人になるまでの我慢だ。
そう。成人になるまでの我慢⋯⋯そのはずだった。
——しかし
その後、私はセルティア魔法学園を卒業し、成人となったが未だ王位を継承してはいなかった。
「どういうことだ、ヴェントレー! 話が違うではないか!?」
私はヴェントレーに「成人になれば私に王位を継承させるという話はどうなったのだ!」と問い詰めた。すると、
「それが実はここに来て事情が変わってきたものでして⋯⋯」
ヴェントレーの話ではフィリップが駄々をこねてジェリコに王位を譲ろうとしないということだった。
「ふざけるな! 俺はずっと成人を迎えるまで我慢して耐えてきたのだぞ! それをどうして⋯⋯!」
「そうは言いましても⋯⋯フィリップ様をいくら説得しても首を縦に振らないのです」
「⋯⋯くっ! お前とは話にならん! 俺が直接説得してくる!!」
私は、そう言って父上が今休んでいる書斎へと向かった。
「父上!」
私はノックもせずにドアを開ける。本来それが無礼なことは百も承知なのだが、今はそんなこと言ってられないくらいに私は感情的になっていた。
「お、おお、ジェリコか! 突然、どうした? ノックもせずに⋯⋯」
「実は父上。王位の件でお話⋯⋯が⋯⋯⋯⋯っ?!」
中に入ると、そこには父フィリップと、
「おや? これはこれは⋯⋯ノックもせずにどうしました、ジェリコ王太子殿下?」
「お、お前は⋯⋯⋯⋯ヴィバルディア・キリシュタイン!」
三大侯爵家の一つで、既得権益貴族を束ねるキリシュタイン侯爵家当主『ヴィバルディア・キリシュタイン』の姿があった。
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