071「セルティア王国国王『フィリップ・セルティア』」
僕の名はフィリップ・セルティア。
セルティア王国の国王である。
この国の民は、僕が国王として統治していることにもっと感謝するべきだと常々思っている。
「とはいえ、民というのはいつの時代も愚かであるからな〜。かと言って、賢くさせるのも統治する側としては問題だし〜。でも、それでも、もうちょっと、せめて僕の偉大さを理解できるほどの賢さくらいは身につける必要があるのではないか?」
と、いつものように宰相に愚痴をこぼす。すると、
「陛下。それではいけません。民は今のまま⋯⋯愚かなままでいてもらわないといけません」
と、宰相がいつもと同じような理屈で返事を返す。そして、その話が終わると、今度もまたいつものように『国の統治者としてあるべき姿』についての話が始まる。
「いいですか、陛下。国を治める者として、国民のコントロールはとても大事です。そして、人をコントロールするというのは簡単ではありません。ですから⋯⋯」
「『国民は愚かで在り続けさせることが大事』⋯⋯てことね?」
「そのとおりです」
「わかってる。わかってるよ。でもね〜、僕の偉大さが全然伝わっていないというのがさ〜、ちょっと面白くないんだよね〜。だって、僕が即位した後、頑張って税金を安くさせたじゃない?」
「⋯⋯ええ」
「それなのにさ〜! 僕のところに国民からの感謝の言葉とか労いの言葉が全く届かないんだけどぉ〜!!」
「それは仕方ありません。なんせ、国民は愚かなままでいさせることが大事なのですから」
「いや、そりゃ、そうだろうけどさ〜⋯⋯」
そして、ループ。
これが僕のいつもの日常だ。
面白くない。まったく面白くない。
「それに、父さんが王の頃はみんな怖がってたじゃない? だから、僕は民に優しく接しているのにさぁ⋯⋯それについても全然民から評価する声とかないじゃん! そんなのはっきり言って面白くないんだよねぇ! もうそんなんなら、いっそのこと父さんの時みたいに非情に扱ったほうがいいんじゃないかと思うんだけどっ!?」
「いえ、それはいけません。前国王のバルザック・セルティア様は威圧感の強いお方だったからこそ、民や貴族に対してもあのような非情な態度ややり方が罷り通ったのです。そんな前王のやり方を優しさと慈愛の塊のようなフィリップ様がやってしまうとそれこそ国民から非難の声が上がり、引いてはフィリップ様を国王として良しと思っていない連中に『現政権を退陣に追い込むエサ』を与えるようなことになりかねません! そのようなバカなお考えは捨ててくださいませっ!!」
と、宰相が僕に対して一気に捲し立てた。
「わ、わかったよ! 冗談だよ、冗談! そうムキになるなよ、ヴェントレーっ?!」
「⋯⋯分かればよろしいのです」
「⋯⋯⋯⋯」
ヴェントレー・シャニマス。三大侯爵家の一つであるシャニマス家の嫡男にしてこのセルティア王国の宰相。『文武両道を地で行く者』と言われるくらい、周囲からは『戦士としての強さ』と『文官としての賢さ』を兼ね備えた完璧人間⋯⋯と評されている。実際、彼の働きのおかげで僕はずいぶん楽させてもらっている。
また、そんな彼は前国王であり僕の父だったバルザック・セルティアの代から宰相を務めており、その頃から宰相としての評価は貴族だけでなく民からも評価は高い。おまけに貴族とのつながりも広いため、内政での揉め事もここ最近は一切ない。
傍から見れば「宰相が仕事できる人だから王は楽できていいだろう〜」と思われている。実際その通りではあるのだが、しかし⋯⋯⋯⋯面白くない。
なぜなら、僕の仕事はヴェントレーから受け取った書類にただサインをするだけで、実際に政策について口を挟むことなどしないからだ。
いや⋯⋯『しない』ではなく『させない』か。
一度、そのような不満をヴェントレーに言ってみたら、
「ほう?⋯⋯でしたら、すべての資料をちゃんとお目通ししてもらえますか?」
と言われ、ドサッと書類を渡された。ちなみに、その渡された書類がどれほどの量だったかというと、僕の机からこぼれ落ちるほどだった。
「そんな量の書類を1日ですべて目を通して精査してサインするなんて⋯⋯できるわけがないじゃないか! 不可能だ!」
逆ギレした僕はヴェントレーにそう言ってその場から立ち去った。
それからはすべてヴェントレーにまかせているのだが、しかし、やはり釈然とはしない。だって、サインするだけなら僕が王である意味がないではないか。
これじゃあ、まるでヴェントレーが王様みたいではないか。
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「ジェリコ!」
ジェリコ・セルティア。我がセルティア家の嫡男で僕の一番のお気に入りの子。下に弟と妹がいるが、下の二人と違って常に僕のことを第一に考えてくれる賢く優しい子だ。髪色も僕と同じ金髪でイケメンだ。
執務が終わった後(とは言っても、やることはヴェントレーの指示通りにサインをするだけの簡単なお仕事なのだが⋯⋯)、いつものように部屋に戻ると、これまたいつものように最愛の息子を呼んだ。これが僕のいつもの日常だ。
「お呼びでしょうか、父上」
「おお⋯⋯来たか。愛しの我が息子よ!」
最愛の息子であるジェリコを呼んで、いつものように今日の出来事を話す。
「聞いてくれよ、ジェリコ。今日ヴェントレーにさぁ、私が民のために尽くしていることをわからせるために、少しくらい民に知識を与えてもいいんじゃないかと言ったらさぁ、『それだと国の統治のためによくない』なんて言うんだよぉ! ひどくないっ!?」
「そうだったんですか。心中お察しします、父上」
「おお⋯⋯察してくれるか、ジェリコよ」
「はい。もちろんです。⋯⋯ただ、ヴェントレーも宰相という立場上、どうしても必要な場合は父上にキツくあたるのは致し方ないのかと。しかし、それらもすべてはこのセルティア王国の偉大なる王である父上のためなのですから!」
「あ、ああ。そうか、そうだな。⋯⋯私はこの国の偉大なる王フィリップ・セルティアなのだから」
「その通りです! 王であるその責務を全うすることは大変かと存じますが、そんな父を私は尊敬しております!」
「おお⋯⋯おお⋯⋯ジェリコよ! 其方は本当に素晴らしい息子だ! この先、もし私が王の座を降りる時は次の王はレオンハートではない! お前だ、ジェリコよっ!!」
「はっ! ありがとうございますっ!!」
ふふふ、本当に良い子に成長したな、ジェリコは。
僕が王の座を譲るのはやはりジェリコしかいないな。
ああ⋯⋯ジェリコのような息子がいるなんて、僕はなんて幸せ者なんだ!
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mitsuzo




