アスモデウスの秘密3
「それは先にも言ったように、彼が造られた存在だからだ。つまり魂の器として生み出された彼には、それ以外は許されない。生物が食事を摂取するように、アスモデウス・ゴートは通常の食事を摂らなくても良い代わりに魂を喰わねば生きてはいけない。」
「そんな…。」
「そもそも、食事とて命を喰らう行為ではないか。彼は命の代わりに、魂を喰らっていただけのことだ。何を驚くことがある?」
「でも…。」
「生きる為の命という君の考え方も、確かに一つの在り方であり真実だ。しかし生きる為の命であると同時に生かす為の命であり、そして故に殺す為の命であり死ぬ為の命なのだ。綺麗事をほざくなら、まずは穢れた真実を受け入れなければ誰も聞く耳など持ってはくれんのもまた真実なのだぞ。」
「…。」
「そういえば先程君は、アップル・イーターという単語を口にしたな。」
「うん、それがどうかしたの?」
「ここまでの話を聞いて何か気付かないか?察しの良い君らしくはないな。アップル・イーター、悪魔の所業、血によって得る力…。これでもう分かるだろう?」
「!…まさか…!」
「…そ、そんな…!」
「そう、そのまさかだ。」
「…?」
「やれやれ、本当に分からないのかい?君は。では、カイにも分かるようにはっきりと言ってやろう。あれは、アスモデウス・ゴートの血を摂取したその成れの果てのようなものだ。それを摂取することで通常の者でも他者の魂をLOに還元し、自らのLOに上乗せすることができるようになる。簡単に言ってしまえば、それさえあればすぐに強くなれる。」
「な、何ィ!?じゃァ、アラシはァ…!」
「…そうだ。だが、ただ強くなれる訳では当然ない。勿論、リスクがある。」
「そ、それは何なんだ?」
「まずは凶暴性の著現に始まり、そして最終的には自我が崩壊する。」
「じゃあ…!!」
「ああ。このままではアラシ・ミタマも、直にそうなってしまうだろうな。魂などないも同然の、ただの力の塊に。」
「元に戻すことはできないの?」
「一つだけ方法がある。ただしかなり困難だろうな。」
「そんなの気にする訳ないよ!」
「で、その方法は?」
「私の冒頭の話をよく思い出せ。」
「冒頭の話…?」
「…その血は飲めば、自身を滅ぼす程の力をその者に与え…。…その涙によってしか、穢れた血を清めることはできない。…涙?アスモデウスの涙で、アップル・イーターを救うことができるってこと?」
「そうだ。毒には毒をということかは分からんが、彼の涙が血清になる。一滴でも飲めれば、晴れてアップル・イーターを卒業できる。ただしそれでアラシ・ミタマの問題のすべてが解決するかは、保証できんがな。」
「それでも、アップル・イーターじゃなくなるのは確かなんだろう?」
「ああ、私は決して嘘を吐かない。」
「そっか、一先ず良かった。少し光明が見えたよ。」
「…。しかし先程君はアスモデウス・ゴートの真実を“悪魔の所業”と称したが、それは正に言い得て妙というものだな。皮肉や嫌味としては、大分ブラック過ぎるとも思うが。」
「僕はそんなつもりじゃ…。」
「でもそうは思わないか?人を惑わし魂を喰らい、その血は自らの眷属を生み出し、そして自らのすべては冥王に捧げる。正に悪魔ではないか。」
「そんな言い方はあんまりだよ。」
「ああ、随分可哀想な悪魔だな。しかし彼の最も重要な真実を伝えておくと、彼自身が自らを悪魔だと心中で人知れず嘆き、そしてたとえ敬愛すべき者の命令だとしても命を絶つという行為には気が咎めていた。アスモデウス・ゴートは天使のような悪魔だった。先程も言っただろう?最近の彼は、食が細くなっていたと。それは、彼の行き場のない苦しみに対するむなしい抵抗だ。」
「…。」
「しかし去り際に彼自身が言っていたように、次の彼が前の彼のすべてを引き継ぐとは限らない。」
「…そっか…。またアスモデウスはアイツに望まないことをさせられて、それを自覚する度に命をリセットさせられてしまうんだね。」
「そういうことになるな。」
「…。そう言えば、すべてを引き継ぐとは限らないと彼も言ってたが、どういう意味なんだ?それにやたらと、今の自分と次の自分は違うとも言ってたけど。」
「簡単なことだ。次の彼に何を引き継がせ、また何を引き継がせないのかを決めるのは、彼の主であるルシフェル・ライオンに他ならない。ただしそれらを、特に人格を引き継がせなかった場合、どのような人物になるのかは彼にも分からないようだがな。」
「でも肉体は違っても、魂は僕達が会ったアスモデウスと同じなんだろう?」
「その通りだ。故に引き継がせなかったとしても、大体は似たような感じになる場合が多い。三つ子の魂百まで、ということかな。その魂の本質的な部分は、不変なものなのかもしれんな。」
「うん、そうだと良いな。でも、それなら僕達が知るアスモデウスと次のアスモデウスは同じなんじゃない?」
「彼が違うと言っていたのは、感覚の違いから来る感情のことだ。」
「どういうことだ?」
「たとえ同じ記憶を有していても、その記憶の見方が違う。主観で見ていた前の彼に対して、次の彼は客観でしか見ることはできない。だから君達のことを知ってはいても、次の彼にとっては写真で見たことのある者との初対面と言ったところだろう。」
「そっか…。でも蘇る彼にとっての死がもし眠りのようなものだとしたら、やっぱりそれは可笑しいんじゃ…?」
「それは違う。たとえ記憶も人格も能力も引き継いでいたとしても、死によってその度すべてはリセットされてしまう。感覚の残り香があったとしても、それは精々既視感程度のものだ。」
「そっか…。」
「さて、私が今伝えるべきことは伝えた。君達はこれを受けて、これからどうする?」
「勿論、やることは変わらないよ。この未曾有の戦争を止めるんだ。その為にするべきこと、まずはセブンズ・シンをどうにかしなきゃ。だから、もう一度アスモデウスに会いに行く!」
「成る程。では私は君達の真実を、今まで通り影ながら見守らせてもらうとしよう。また会うことがあるかもな。」
「そっか。でも結局何でわざわざ僕達に会いに来たのか、はっきりとは教えてはくれないのかい?」
「教えたではないか。世界の真実を暴く為だ。その為には、君達がこの世界を救うことが重要な意味を持つ。その先に私の求める真実があるのだ。だからだ。」
「…?ふーん。よく分からないけど、君には君の大切な目的があるっていうのはよく分かった。」
「今はそれで良い。では、さらばだ。」
「うん、ありがとう。さようなら。」
「またなァ。助かったぜェ。」
「またな。」




