#64 はじめの結末
「コモン……なんか、消えかけて…」
「ま、ロンの体が壊れたら、魔法のおかげで実体貰ってた俺も消えるんだよ。自然の摂理ってやつ?」
あっけらかんと言うコモンに、少しの苛立ちと目を合わせられない罪悪感が生まれる。
コモンは優しい手つきで、燃えて崩れていくロンにそっと触れた。
「やって、くれたんだな。ありがとう……は、変か?」
「……わかんない。だって、僕はコモンの好きな人…殺したんだ。感謝、されることじゃ」
「もう」
僕の言葉を遮って、コモンが言葉を続ける。
「もう、いいんだ。……ロンは…お前のおかげで苦しまずにすむ。だから、ありがとう」
コモンが初めて、僕の前で笑顔を見せた。
僕には、その笑顔に込められた思いや感情全てを見透かせるわけではない。
けど、憎しみや怒りと言ったものがないのはわかった。
「はじめぇ、人からの好意は受け取っとけよ〜」
「うるさいな!……まあ、コモンが言うなら。僕がうじうじしてる訳にもいかないか」
つんつんとヤンキー赤ずきんさんに弄られながら、コモンに向き直る。
コモンとロンが決めた結末。僕の知るヘンゼルとグレーテルとは大きくかけ離れてしまったが、これはこれである種のハッピーエンドなのかもしれない。
コモンがロンの傍に座り込む。
「もう……一人にしないから」
独り言。独り言のはずなのに、どこか会話しているようにも見えた。コモンの顔は明るく、それでいて、目は潤んでいた。
「あ……ヘンゼルの檻も開くかな?」
ヘンゼルの檻まで行く。鍵に手をかけると、ボロっと砂のように消えた。それを皮切りに、ヘンゼルごと檻が床にドサッと落ちて、砂のように消えていく。ヘンゼルがお尻を押さえて痛そうに顔を歪めた。
「ご、ごめん!痛いよね……立てる?」
「そんな心配しなくても大丈夫だわ……てか、俺よりお前!ひむろ、ボロボロじゃん」
「え」
そう言われて気づく。自分の手、切り傷で血だらけ。頬からの血は固まっているし、狼男に入れられた傷もジンジン痛む。そして、いちばん酷いのは足。やけどで爛れており、変な模様が足首から広がっている。
アドレナリンが切れたのか、全身の痛みが悲鳴をあげ始めた。
「こ、これ……やばいかも……」
視界がグラグラ揺れ始めて、その場にばたんっと倒れる。瞼が重くなる。
「は!?」
「はじめさん?……はじめさん!」
ヤンキー赤ずきんさんのびっくりしたような声。クラージュ君が僕の体を揺らす。
「く、くら……じゅくん。やめ……吐く」
「え!?ご、ごめんなさい……」
貧血なのか。はたまた痛みに体が耐えきれなくなったのか。
僕の意識が遠くなっていく。
「ふーん。お前は、そういう結末にしたんだな」
暗い路地裏。白いローブが、変に目立った。




