#65 姉として
魔女さんside
目を覚ます。
初めに視界に入ってきたのは、たくさんの木々たち。ロンの館にいたはずなのに、いつの間に外に……?
周りを見ると、ロンの館があった場所は綺麗さっぱり消えていた。違和感があるほどの、空白があった。
そんなことを考えていると、ドスッと誰かにどつかれた。私のお腹に突進してきた、小さな子供がいる。
「────グレーテル?」
「魔女さん!魔女さん!……うわあああん!生き返ったぁ!」
私の名前を呼んだかと思えば、大きな声で泣き出してしまったグレーテル。大粒の涙を零しながら、頭をグリグリと押し付けてくる。
地味に傷に当たって痛い……
「いや、まず死んでねぇだろ」
左側から鋭いツッコミが聞こえてきた。小さな背丈に赤いずきん……。
「貴方がはじめの友達?」
「……は?」
私がそう聞くと、赤ずきんはぽかんと数秒固まり、慌てたように少し赤くなった頬のまま否定し始める。
「は、はぁ?オレがぁ?こいつと友達?……んな訳あるか!こ、こいつは!あれだ、用心棒!」
うんうんと自分で無理やり納得しようとしているが、顔の火照りは隠せていない。
何故か私の隣で倒れているはじめの頭をペシペシ叩きながら、「用心棒、用心棒!」と呪文のように言い続けている。
「……って、こんな話してぇわけじゃねぇんだよ。……おい、魔女。オレはオブラートに包まずに言うぞ。お前の妹、ロンは死んだ」
一瞬、世界から音が消えたような気がした。先程までの平和な空気を消去するのには、それは足りすぎた。風だけは何も知らずに私の髪を揺らす。
「……私の妹の方?それとも、偽物の方?」
「両方だ。悪魔の方を殺したら、中にいた本物の魂ごと燃やされた」
たった一つの希望も打ち砕かれ、なんとも言えない、心の空白を感じる。
元から何年も疎遠だったんだ。中身は悪魔だったとしても、さっきまで姉なのに妹と殺し合いをしていた。
そんな私に、あの子を思う権利も、悲しむ権利さえもないのかもしれない。
「……死体は?」
「残ってねぇよ。恋人共に、消えていったよ」
「コモンと一緒なのね。……はじめが?」
そんな私の問いかけに、グレーテルは焦ったようにワタワタと話し始める。
「えっと!はじめはずっと悩んでて……女の人殺していいのかって。……だから、はじめを怒らないであげて欲しくて…!」
そんな可愛らしいグレーテルの頭を優しく撫でて、体を起こす。動く度に傷口が痛むが、我慢するしかない。
「ちょ……あの怪我で起きんの?まじぃ?」
目を丸くしてこちらを見ているのは、見覚えのある狼男。少しチャラチャラした見た目とは裏腹に、一応戦闘していたらしい。所々ボロボロだ。
よろめきながら、はじめのそばに行く。クラージュ君は、はじめの手をギュッと握りしめており、離さないという意思を感じた。
はじめの柔らかい頬をツンツンとつつく。
「はじめ。一つだけ、聞きたいことがあるの」
何度かつついていると、「ん……」と小さく声を漏らし、ほんの少しだけ目を開く。
そんな私たちの光景を、周りの人達は静かに見届ける。クラージュ君の手を掴む力が強くなっているように思う。
「……ロンは、苦しんでいた?」
その発言を聞いて、はじめは一瞬目を見開いた。否、その発言に対してなのかは分からない。ひとつ言えることがあるとすれば、私の目から汗が出ていたということくらいだ。
「苦しまずに……済むってさ」
私は数分間、小さな雨によってポタポタと濡れ続ける地面を眺めていた。




