#63 恋人たちの思い出(後編)
平和な一時というのは、平和が壊れて初めて平和だったことに気づく。
深夜2時程を回った時。隣で寝ていたロンから呻き声が聞こえてきて、目が覚めた。
「ロン……?」
暗がりの中、名前を呼ぶ。返事はない。ロンの体に触れる。そして気づいた。熱い……ロンの体が、熱すぎる。
平熱は36.5度くらいなのに、今は軽く40.0度は超えているだろう。
発熱か?そう思い、電気を付けようと照明に手を伸ばした。
その時、真っ暗の部屋が眩しいほどの光で包まれる。それから、自分の体が壁に打ち付けられたことを知る。全身への激痛。理解するまで時間がかかった。
急な明るすぎる視界に、目が機能しない。チカチカと世界が点滅しているようだった。
「ろ、ロン…!大丈夫か?そこから動く……カハッ」
回復も何もしていない体を引きずりながら、ロンがいるはずのベッドへと進もうとした。だが、それは叶わない願いとなる。
腹部。いや、横腹かもしれない。どこかも分からなかった。呼吸ができなくなる。腹辺りに痛みが集中して、動けなくなり、その場に倒れる。
なにが、起きた?ロンは無事なのか?
────そう思った時、思いたくない可能性が頭をよぎった。ロンの、魔法の暴走。あいつは小さい頃から魔法を使っていたと言っていた。
小さい頃……もう20年近く、毎日魔法を使い続けていたとしたら……魔力は減るはずだ。それだけじゃない。
俺の見ていた物語に……近しい話はなかっただろうか。
“魔法は神から与えられた祝福。ですが、その力に溺れることは許されません。魔法を使いすぎれば、いずれは魔法に体を乗っ取られてしまう。何事にも、いい事だけ。なんて美味しい話はありません”
どんな物語かも、男か女かも分からない。でも、何故か頭にこびりついていた文。冒頭……だろうか。
ただ、今思い出した。それが意味すること……それは。
「お前は……ロン、なのか?」
口から血が垂れる感覚。口の中に鉄の味が充満する。気持ち悪い。だが、聞かなければならない。
目の前にいるであろう相手は、本当に愛している人なのだろうか。俺が好きになった、大切にしたいと思った相手なのだろうか。
意識が遠くなる。唇を血が出るほど噛む。痛みでどうにか意識を保とうとする。
「答えろ。……答えてくれ、お願いだ。お前は……誰だ?」
どんどん呼吸が浅くなっていく。視界が閉じていく。俺の物語は……本当にここでおしまい?
ロン、俺は……お前を救えていたのだろうか。
「ふふ…」
意識が無くなる寸前、世界で一番愛していた人の声が耳に届いた。ただ、その声は決定的に違う……何かがあった。
これが────恋人たちの最後。ロンの、変わってしまった瞬間だった。
え?あの冒頭はなんだったのかって?……後に分かるさ。この物語を最後まで見届けたらね。




