#62 恋人たちの思い出(中編)
ロンの
「魔法が使える!」
というカミングアウトから、月日は2年ほど経った。
それは、住む場所のないロンが俺の家に住み始めてからも2年が経った、ということでもある。
あれからは、普通に悩んでいた俺が、非日常の具現化のようなロンに振り回される日常に悩むようになった。喜んでいいのか、悩みの消えない日常に絶望した方がいいのか…まだ分からない。
ただ、嫌だとは微塵も思っていない俺がいるのは、事実でもあった。
今日も、ロンは魔法を使って、人に見つかりそうになり、慌てて逃げたら木に引っかかったようだ。
綺麗な服は切り傷でボロボロ。もう服が可哀想まである。
「今日はなんで魔法使ったの?……てか、そろそろ家に帰ろうとは思わないの?」
自分の本音には蓋をして、聞く。
「……その話はやめて。家には姉さんが暮らしてるから。姉さんはほとんど魔法なんて使わない。私がいなかったら…あんな離れで差別されることもなかったのよ」
ロンは家族の話をされるのを嫌った。ご両親はロンとお姉さんを悪魔の子だと怯えて、2人を森の中に置いて行ったらしい。その後、2人は森を探索し、人のいない廃墟を見つけて魔法で掃除や建て替えをし、家にしたようだった。
想像もできない幼少期。ロンはお姉さんがいたから頼もしかったらしいが、同時に申し訳なさに日々殺されそうだったという。だから、できる限りお姉さんとは話さなかったし、関わることを避けた。
素直になれないからこそ、修復不可能のすれ違いが起こってしまい、ロンは家を出ることを決意。
そこで、あの日2年前、俺に出会ったという。
「ロン。ロンがいなかったら、なんてお姉さんは言ったことあるの?」
「言わなくても、態度が物語ってた。私が12歳くらいから、ほとんど話すことは無くなったの。私が魔法を使っていたら昔は止めていたけど、もう関心もなくなったのか、その時からは見て見ぬふり。私たちの間に……愛なんて無かった。家族愛なんて、最初からなかったのよ」
家族愛。俺は幸せなことに家庭にはめぐまれていたから、ロンの気持ちに心の底から寄り添うことは出来ない。
それでも寄り添いたい。誰よりも近くで、君に。
そう思ってしまう程には、俺はロンに絆されているらしかった。
2年という月日は、短いようで長い。俺の中に、新しい愛の形が作られる程には、時間が経っていた。
「ロンは……愛を知らないの?」
「……そうね。本当の意味での愛は、知らない」
無情にも、その言葉に俺の胸は飛び跳ねた。
「そっ……それじゃあ…さ。あの……俺が教えるって言うのは、どうでしょうか?」
そんな俺の一言に、ロンは目を丸くする。理解が追いついていない。フレーメン反応を起こしているネコみたいな顔だ。
そんな見たことない顔にさえ、一喜一憂してしまう俺は、余程ロンに惚れているようだった。
これが───俺の最初で最後の、遠まわしな告白だった。




