↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変異童話  作者: 偃月作
第一章、ヘンゼルとグレーテル
PR
61/62

#60 約束の5秒間

「はァ?てか、凶暴化ってなんだ……うおっ!?」

狼男の言葉を遮るように空気砲みたいなものが飛んでくる。ギリギリで避けた僕らの後ろの壁には、黒い燃えた後のようなものが付いている。


つまり───

 

「これ、爆弾?」

「は……いやいやいや!!爆弾とか使う相手に丸腰の人間が敵うわけなくね!?死ぬって!」

「お前は狼男だけどな」

自分の置かれている状況をようやく理解したのか、狼男は隣にいた僕に悪魔のやばさを語る。

一番年上なのに情けない。丸腰でも今はとにかく戦わなきゃ───


「丸腰?」

「そうだよ!だからッ」

「……いや、武器ならある。…狼!」

狼男の服をグイッと引っ張り、ひそひそと耳打ちをする。そして、僕の話を聞いた狼男は目を見開く。

「……お前、まじかよ」

「まじ。大マジ。狼男、お前にしかできない」

今の作戦。それは狼男にしかできないことだった。僕と狼男の視線は───頭上のシャンデリア(武器)に向いていた。


それを見て、ヤンキー赤ずきんさんは目を丸くする。僕、狼男、シャンデリアを交互に見る。

「あ”ー……本気か?」

「本気だとよ。時間がねぇ、やるからな」

ヤンキー赤ずきんさんは頭を掻きながら、はー……とため息をつく。狼男は嫌がりながらも覚悟を決めてくれたようだ。

パチッと2人と目が合う。そして、離れる。


「……っと、危ねぇな!」

狼男の怒号と激しい戦闘音。火の玉が飛んだり、瓦礫が飛んだり、悪魔の本気度が見える。ヤンキー赤ずきんさんは自慢の馬鹿力でヘンゼルの檻を壊そうとするが、無理そうだ。


僕は全神経を集中させる。最高のタイミングで火をつける。投げる。頭の中で何度もシュミレーションし続ける。……まだ。まだだ。


ポタ……と額から汗が垂れた。

 

「おい!約束の5秒だッ!!」

悪魔がシャンデリアの下に来る。狼男が脚でガッとシャンデリアの付け根を蹴る。シャンデリアが落ちる。

「ぐあァァ…!!」

悪魔の動きが──止まった。

 

「ッーー!!」

シュッとマッチ箱に擦り付ける。火がつく。

「ほいっ!」

悪魔の方に火を投げる。ここだ。ここで全てが決まる。火がついて、燃えてくれれば……!


コモン。お前の代わりに……僕は───お前の恋人を殺そうとしている。

 

「ア”アァァァ!!」

悪魔の悲痛な叫びが耳に響く。狼男が耳を塞いで顔を顰めている。


燃えた。

ガソリンでも引いていたのかという勢いで燃えていく。肌にマジモンの火の熱さを感じる。ジリジリと焼けていると錯覚してしまうほど。


これで……良かったのだろうか。きっと、この悪魔の真髄には本来の人───魔女さんの妹、ロンがいるはずだ。その人ごと、燃やしている。殺人、そういうことになる。

自分のやった事は間違っていない。…そうも思えないのは、僕が優柔不断で最後まで悩んでいたからだろうか。


コモンがこれを渡したのは……殺して欲しかったから?本当にそれで良かったの?

分からない。でも、もう遅──

 

「なっ」

ガッと火の中から腕が伸びて、僕の足を掴む。振りほどこうにも、力が強すぎて無理だ。火が足をジリジリと焼いてくる。

「熱ッ……」

それに気づいた狼男が僕の体をガシッと掴み、引っ張る。

「ちょ、痛い痛い!」

「うるせェ!お前自分の足見て発言しろ!」

バッと自分の足を見て、目を見開く。

血が流れて、赤黒く変色し始めている。火傷……と言うよりも、爛れていると言った方がいいかもしれない。そして、そこから変な模様のようなものが広がり始める。

「……なに、これ」

「知らん!ただ、最悪お前死ぬぞ!」

痛い。

それだけが僕の脳裏を埋め尽くす。

だって、少し前まで普通に学校に行って、普通にご飯食べて、普通に寝てたんだ。なのに、痛みに耐えれる訳ない。


……なんでここに来たの。なんで……帰れないの?

 

「馬鹿野郎!痛い事ばっか考えんな!まだ終わってねぇんだよ!」

ヤンキー赤ずきんさんが、僕の足を掴んでいた手を踏む。子供の限界というものが垣間見えるが、助けようとしてくれている。それだけはわかった。


「……ッ悪魔!もう終わりだ!」

僕がそういった瞬間──手がボロ…と崩れ始めた。全員の荒い呼吸音だけが空間に響いている。足を見る。正直、見るも無惨な状況。変な模様が広がっているが、手は離れている。


「……がと。……ありがと」

微かに。微かにだけ聞こえた。感謝の声。

 

悪魔───いや、ロンの方を見る。

「……ロン?」

返事はない。狼男やヤンキー赤ずきんさん達と目を合わせる。今の、聞こえた?と。

「明らかに、聞こえたぞ」

「あれが本物ってことかよ」

「はい。ロン、魔女さんの実の妹さんです」

いつの間にか僕らの間に現れたクラージュ君。


その言葉を聞いて、ヤンキー赤ずきんさんと狼男はギョッとする。

『は!?妹ぉ!?』

仲良いなこいつら……。

まあ、そういう反応になるよなー…と思っていると、ヤンキー赤ずきんさんがずいっと近づいてきた。

「お前さぁ……そういう事は先に言えよ。なんだよ、敵の魔女って」

「あー……それは、ごめん」

「あなた、また言葉足らずな発言したんですか?」

クラージュ君からも冷たい視線が刺さる。年下たちからこんなにも責められることある……?


「ふっ…嫌だわぁ、こんな年上笑」

「うるせーよ、もっと年上野郎」

ジトっとした目で狼男を見る。お前の方が年上だろ?という目で。

 

「……おい、ガキ。終わったみたいだな」

「…え?」

足に少し触れながら、なんだこの模様……とか思っていたら、後ろから声がした。

 

──そこに居たのは、さっきよりも薄く揺れているコモンだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。