#58 倒し方
魔女さんが悪魔の背後を取るために、間合いを取りながら慎重に動く。
僕はその様子を見ながら、マッチを手に持つ。最高のタイミングで火をつけるためだ。
このマッチの使い道。正直、僕はこれしか思いつかなかった。
“悪魔を燃やす”
マッチの使い道なんてたかが知れてる。ほかの道具がない限り、このマッチを燃やす以外に使う方法はないだろう。
でも、マッチの火は人が燃えるほどの火力は無いし、すぐに消えてしまう。というか、人は殆どが水分でできているし、簡単に燃えてはくれないはずだ。
でも、この黒いマッチならどうだ。もしかしたら、対悪魔用に作られた特別なマッチかもしれない。
方法がない今、とにかくやれることをやってみなければ。
「クラージュ君。一応、グレーテルを連れて悪魔から離れといて」
「…な、何をするつもりですか?」
「……悪く言えば悪魔殺し。よくいえば…成仏のお手伝い?」
「成仏…?」
大人びたクラージュ君も、流石に難しい言葉は知らないようで、怪訝な顔をしたままグレーテルを抱える。細身で小柄なグレーテルを抱えているのを見ると、クラージュ君の心身の成長を感じた。
出会った当初は、狼男に食べられそうになり、僕の後ろに着いてくるだけだったのが……こんなにも成長して…。
「変なこと考えてないで、集中して下さいよ!」
バレてた…。
僕がこんな事をしているうちにも、悪魔と魔女さんは両者引けを取らない戦いを────と思っていたが、なんと魔女さんが少し押され気味だった。
さっきも言っていた魔力切れのせいか、魔法の不発が重なっており、防御で精一杯のようだった。
僕が無理を言ってしまっているんだし、本来ならば休ませなければならない人。
ただ、1度しかないチャンスを無駄にはしたくないため、できる限りマッチの火が悪魔にドンピシャで当たるようにはしたいのも事実。
「はッ……」
思考の海に溺れていた時、幼い子供の息を飲む声が聞こえた。
後ろを向く。
ヘンゼル目掛けて、キッチンにあったであろう、ビンやお皿が割れて尖った状態で飛んでくる。あの細さなら、簡単に檻なんて通ってヘンゼルを傷つけるだろう。
悪魔さえ気づいていないのだから、目の前の敵を倒すために奮闘している魔女さんが、ヘンゼルの危機に気づくはずない。
「ヘンゼルッ」
「はじめさん!?」
少年漫画とかで、“気づけば体が動いていた”とか、主人公が言うセリフ。思考よりも体が先に動いていたってことだろ?
そんなの余程の善人じゃなきゃ出来ないだろって思ってた。
でも今、そんな主人公に───ちょっと近づけたような気もする。




