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変異童話  作者: 偃月作
第一章、ヘンゼルとグレーテル
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58/62

#57 中途半端

「ッ…!」

 

魔女さんが悪魔に魔法を打ったのを確認し、急いでマッチ箱を取りに行く。

コモンが僕にくれたのにはきっと、何か意味があるはずだ。

 

考えろ。考えろ。考えろッ……


「そんなに考えている暇あるんですかぁ?」

悪魔の足元に転がっている、破壊された破片や食器が宙に浮く。そして、見覚えのあるキラキラのエフェクトとともに、僕に目掛けて一目散に破片たちが向かってくる。


「はじめ君ッ!」

魔法さんの悲痛な叫びが脳を刺激する。ビーッビーッと脳内で警告音が鳴っているようだ。

 

「いッ……」

腕を顔の前に上げ、できる限りの外傷を減らそうと足掻く。だが、逃げることも避けることも出来ず、これまでなら感じるはずもなかった、鋭い痛みが身体中に走った。


手先が痛みに震える。息の回数が増えていく。目を開くことが怖い。


「そんな中途半端な覚悟だから、痛い目にあうんですよ。別に痛ぶるのが趣味な訳じゃないので、魔眼レンズを返していただけると言うのであれば、こちらから危害は加えません」

「じゃあ、魔眼レンズを返せば……ロンを解放してくれる?」

「…はて?一体何を言っているのか分かりませんねぇ。私は悪魔で、今まではロンとして生きてきた。私本人なんですから、解放もクソもないでしょう」

「違う。アンタは成り代わってるだけだ。本人がいるはず……ギリギリ手の届く深さに」


悪魔は僕に……いや、クラージュ君たちに悟らせないようにするためか、何を言っているのか分からないという態度を決め込んでいる。

正直、僕的にもそれはありがたい。もし本物のロンがいると知れば、今からしようとしていることを止められてしまうだろうから。

 

さっきの攻撃により、穴が空いたマッチ箱。その中から覗く、一本のマッチ。それは僕の知っている木のマッチではなく、黒いマッチだった。


そのせいで、これまでこの存在に気付きずらかったのだ。

なんせ、箱の中まで丁寧に黒く塗りつぶされていたんだ。

そこから察するに、これはマッチ箱を持っている人だけに気づいて欲しかった───最後の切り札のようなもの。


「魔女さん。お願いがある。少しでいい、5秒だけ悪魔の身動きを取れないようにしてほしい」

「もう魔法がほとんど不発状態だけど…それでもいい?」

「大丈夫。一撃で仕留めるから」


マジマジと確認をした訳じゃないが、箱に入っていたマッチの本数は一本。つまり、正真正銘の一発勝負という訳だ。


僕だって怪我したい訳じゃない。痛いのは嫌いだ。ただでさえ、爆発に巻き込まれていたり、狼の野郎にボコボコにされてんだ。これ以上やられてたまるか。


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