#57 中途半端
「ッ…!」
魔女さんが悪魔に魔法を打ったのを確認し、急いでマッチ箱を取りに行く。
コモンが僕にくれたのにはきっと、何か意味があるはずだ。
考えろ。考えろ。考えろッ……
「そんなに考えている暇あるんですかぁ?」
悪魔の足元に転がっている、破壊された破片や食器が宙に浮く。そして、見覚えのあるキラキラのエフェクトとともに、僕に目掛けて一目散に破片たちが向かってくる。
「はじめ君ッ!」
魔法さんの悲痛な叫びが脳を刺激する。ビーッビーッと脳内で警告音が鳴っているようだ。
「いッ……」
腕を顔の前に上げ、できる限りの外傷を減らそうと足掻く。だが、逃げることも避けることも出来ず、これまでなら感じるはずもなかった、鋭い痛みが身体中に走った。
手先が痛みに震える。息の回数が増えていく。目を開くことが怖い。
「そんな中途半端な覚悟だから、痛い目にあうんですよ。別に痛ぶるのが趣味な訳じゃないので、魔眼レンズを返していただけると言うのであれば、こちらから危害は加えません」
「じゃあ、魔眼レンズを返せば……ロンを解放してくれる?」
「…はて?一体何を言っているのか分かりませんねぇ。私は悪魔で、今まではロンとして生きてきた。私本人なんですから、解放もクソもないでしょう」
「違う。アンタは成り代わってるだけだ。本人がいるはず……ギリギリ手の届く深さに」
悪魔は僕に……いや、クラージュ君たちに悟らせないようにするためか、何を言っているのか分からないという態度を決め込んでいる。
正直、僕的にもそれはありがたい。もし本物のロンがいると知れば、今からしようとしていることを止められてしまうだろうから。
さっきの攻撃により、穴が空いたマッチ箱。その中から覗く、一本のマッチ。それは僕の知っている木のマッチではなく、黒いマッチだった。
そのせいで、これまでこの存在に気付きずらかったのだ。
なんせ、箱の中まで丁寧に黒く塗りつぶされていたんだ。
そこから察するに、これはマッチ箱を持っている人だけに気づいて欲しかった───最後の切り札のようなもの。
「魔女さん。お願いがある。少しでいい、5秒だけ悪魔の身動きを取れないようにしてほしい」
「もう魔法がほとんど不発状態だけど…それでもいい?」
「大丈夫。一撃で仕留めるから」
マジマジと確認をした訳じゃないが、箱に入っていたマッチの本数は一本。つまり、正真正銘の一発勝負という訳だ。
僕だって怪我したい訳じゃない。痛いのは嫌いだ。ただでさえ、爆発に巻き込まれていたり、狼の野郎にボコボコにされてんだ。これ以上やられてたまるか。




