#55 悪魔
「なんで…なんで!?」
そうクラージュ君が、好奇心と恐怖の入り交じったような声をだし、僕の肩を掴んだ時。
───僕の鼻スレスレに何かが飛んできた。
「!?」
手のひらの力が緩み、マッチ箱を床に落とす。
「あー、当たらなかった。惜しかったですねぇ」
さっきまで魔女さんしか見ていなかったはずのロンが、今はしっかりとこちらを認識していた。それも、信じられない量の殺気を放ちながら。
「その魔眼レンズはどちらから?普通の人が手に入るものでは無いですけど。貴方が盗んだということでよろしいでしょうか」
手のひらをこちらに向けて、魔法を放つ準備は完了している。この至近距離はマズい。
背中に冷や汗が垂れるのがわかる。
それでも、僕は震える口で返答する。
「貰ったんだ。親切な大人からね」
「……へぇ。こんな所に親切な人がいたんですね。みーんな性根が腐ってますから、驚きですよ」
「そう?ロンならすぐに思い当たる人がいると思ったんだけど……まあ、しょうがないか」
後ろに立っているクラージュ君へ、手でグレーテルを指す。
“ヘンゼルとグレーテルを守ってくれ”という心の声は見えただろうか。きっと冷静な彼なら、見えなくてもわかると思うが。
「何が言いたい?」
「アナタはロンじゃない。ただの欲に塗れた“悪魔”だ」
その一言で、ロンの雰囲気が一瞬にして変わる。クラージュ君達にもわかったのか、怯える声やハッとした息遣いが、背中越しに伝わってくる。
ハッピーでメルヘンなはずのお菓子の家は、僕のせいで台無し。
魔女は悪魔だったし、グレーテルは倒れてるし、ヘンゼルは捕まったまま。
さっきの攻撃で、ヘンゼルの檻が壊れているかも!と思ったが、そんなことはなく、ライオンでも入れるのかという大きさの檻は、傷一つ付いていなかった。
「その悪魔にお前はどうやって勝つんですか?読者の僕なら勝てる?一生懸命頑張る?…まさか、考えも無しあのような発言をした訳では無いですよねぇ笑?」
隠す必要がなくなると、下品な笑い声をあげながら僕を嘲笑う悪魔。ハイライトの消えた黒い目を三日月型にしながら、魔女さんを見て、目線をクラージュ君へ動かし、ヘンゼル、グレーテル……そして僕を見る。
それがまた不安を煽り、ビリビリとした嫌な雰囲気を更に際立たせる。
「考えなし…って言ったら、どうする?」
「ハッ……自殺願望者が」
大丈夫。いざとなれば、“主人公”が助けに来てくれるはずだから。
「そうだよね。ヤンキー赤ずきんさん」




