#54 レンズ
ドアへ手を伸ばしたまま、少しの間考える。
全てが終わった後だったらどうしよう。結末通りだったら…。
そんな嫌な妄想で思考が埋め尽くされていく。
それでも、唯一結末を知っている僕がどうにかしなければ、ヘンゼル達が幸せになる結末は来ない。
「グレーテ……は…」
ドアを開く。
そして、広がる光景。
「……」
「はじめさん…?」
倒れているグレーテルに、ボロボロのクラージュ君。
「ひむろ!」
檻の中に閉じ込められ、座り込んでいるヘンゼル。
檻の傍まで走り、檻越しに話す。
「ヘンゼル!…良かった」
「私より魔法の才能が無いくせに……よく戦おうなんて思いましたねぇ」
「悪魔は黙って」
「悪魔だなんて……たった一人の家族である私に酷い言いようですね。お姉ちゃん?」
魔女さんとロンの魔法を使った戦い。
思ってもみなかった状況に、僕は目を丸くした。
「クラージュ君、一体なにが?」
「……あなたの元にも来たでしょ?恋人とかいう人。あの人にここまで連れてこられて、部屋に入った瞬間…あの人が魔法を使ってきて、攻撃してきたんです。その時には、グレーテルはもう倒れていて…」
「死んでないよね?」
「大丈夫だと思います。気絶しているだけかと」
その一言で、少しだけ心の余裕が出来た。グレーテルの頭を優しく撫で、ヘンゼルの檻の近くへ行く。
「ヘンゼル、ここは鍵が無きゃ開かないやつ?」
「わかんねー。ロンとか言うやつが魔法で作った檻だし、鍵をかけてる動作も無かったから」
魔法で作ったとなると厄介だ。鍵も一緒に作ってないとしたら、ロンを倒さなきゃ檻も消えないかもしれない。
顎に手を当てて悩んでいると、ふと思い出したことがある。ヤンキー赤ずきんさんだ。僕よりも先に言ったはずのあの人がいない。
「そういえば…ヤンキー赤ずきんさん来てない?僕より先にこっちに向かったんだけど…」
「え。でも、ここには一度も来てないですよ。どっか道草食ってんじゃないですか?」
あんな緊迫した状況で道草を食うとは思えないが、何か他のことに巻き込まれている可能性も捨てきれない。いつの間にか騒ぎの中心にいるヤンキー赤ずきんさんだし、全然有り得る。
「このマッチもよく分かってないし……」
ポケットから徐に取り出したマッチ箱。中身だって何の変哲もないマッチだろ……そう思って、初めて気づいた。
中に入っているメガネのレンズのようなものに。
メガネの片方だけみたいな見た目で、少し高そうな縁だった。片眼鏡的なやつか?
一つ、あることを思いついた。このレンズの使い方。
興味深そうに覗いてくるクラージュくんと共に、そのレンズ越しにロンを見てみると───
「ロンが……」
「悪魔の姿になってる…」
僕らの目に映ったのは女性の姿ではなく、紛れもない───悪魔の姿だった。




