#53 恋人
服や頭についた瓦礫たちを叩きながら立ち上がる。さっきよりも足場は悪い。
とりあえずこの謎男から距離を取らなければ……。
謎男は、黒い髪に黒い目……典型的な日本人の見た目をしていた。ただ、真っ白な肌のせいで少し生気がないように感じてしまう。
「あなた…誰ですか?」
「それは名前か?それともロンとの関係性を話せばいいのか?」
「……じゃあ、どっちも」
さっさと名前だけでも言えよ。と思ったが、そういうなんでも聞きたくなってしまう性格なのかもしれない。僕の通っていた高校にも、質問攻めが得意な奴がいた。
だから、そういう奴の扱いには慣れている。
「名は“コモン”。ロンと俺は、恋人だ」
「ん?」
自分でも素っ頓狂な声が出たと思う。でも、急な新キャラ登場とその情報量の多さに、まだ追いつけていないのだ。
あの魔女……ロンの恋人?
けど、なんでこのタイミングで出てきた?それに、ロンはまだしも、恋人なんて原作には出てきていないはず。
そう思い、ハッとした。
まず、本来のヘンゼルとグレーテルには、読者と呼ばれる僕も、赤ずきんの登場人物も七ひきのこやぎの登場人物も出てこない。
……僕らのせいか。
瞬時に理解した。
「えっとぉ…な、なんで恋人さんがここに?」
「お前らをロンのところに連れていくために決まっているだろう。他の分身はもう向かっているみたいだし、俺らも早く行くぞ」
「ちょ、ちょっと待って!話が早く進みすぎだ!分身…?連れていく?訳の分からないこと言うのやめてくれ」
踵をかえして歩き出している男の背中に向かって叫ぶ。
足を止める気配は無かったので、僕も走ってついて行くが、こっちを見ようともしなかった。
「自分の恋人が今何してるのか知ってんの?」
気まづい空気に耐えきれず、僕は話を切り出す。
少し沈黙をおいてから、コモンは“ああ”と呟いた。
「じゃあ、なんで今になって僕らの前に現れたの?」
「……アイツが弱ってる。今しかなかったんだ。じゃなきゃ、“魂でしかない俺が分身を作って、動き回ることなんてできない”」
コモンは実体もある。どこか揺らいでいる様子も、霞んでいる様子もない。
ただ、真っ白な肌の奴だとは思っていた。言い方が悪いが……死人のような顔色だった。
「あんた……幽霊だったの?」
「気づいてなかったのか。ロンと出会って何年か経った頃、死んだんだ。まあ、後悔はしてないがな」
なんで亡くなったのかは、聞かなかった。
コモンがすごく寂しそうな顔をしていたから、言えなかった…というのが正しいのかもしれない。
「ここだ」
男が指を指した先には、一つのドアがあった。見覚えのあるようで少し違う、お菓子のドア。
「俺はここまでしかいけない。多分、あの子に見られれば、この魂は本来の体へと戻ってしまうだろう。だから、俺の代わりに行ってきてくれ」
そう言って渡された、一つのマッチ。
何に使うのかは……きっと進めばわかる。




