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「まぁまぁ、女将」


 緊張感のない声が殺伐とした空気を割る。


「うっ」


 かすかに漂ってきただけの妖気に息が詰まった。


 弱っているせいもある。


 でも、これはかなり強いものだ。


「ぬらりひょん」


 マサノリが小さく名前を口にした。


「おや、そこのおにいはん。よう知っとりますな」


 とるにたらない一言二言で気づくほど、こいつはオレたちを舐めきっていると感じた。


「ナヲはこちらに来たばかりだろう? なら同胞との別れは名残り惜しいだろう。あと一日で人間世界ともおさらば。迎えは明日にするよ」


 なんとか様子を伺おうと顔を動かした時にはチカはお歯黒べったりに連れていかれ、せいぜい残りの時間を楽しむんだな、とぬらりひょんの皮肉の笑みが目に焼きついていた。


 ぴしゃり、と障子が閉められ沈黙が流れる。


「どうすんだよ。ヤバすぎじゃん! このままじゃチカ先輩あの頭でっかちに」


 サクが自分に言い聞かせるように声を発した。


「ぬらりひょんが相手だとまずいかも」


 マサノリも唸った。


「厄介な物の怪なのか?」


「取り入るのがうまいっていうか、掴みどころがなくて。留守中の家に勝手に上がりこんで飲み食いして煙草を吸って、まるで家の主みたいにふるまうって言われてる。家の住人が帰ってきても、ぬらりひょんを本当に家主だって思ってしまうんだ」


「なんかアカウントの乗っとりっぽくね?」


 説明を聞いたサクがドン引きする。


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