夢から覚める時
「司ちゃんにはあれは刺激が強すぎたでありんすね」
手ぬぐいを絞るチカのあきれ声に何も言えない。
昨日、花火を満喫して廓に戻ったオレは、体調をくずしまくり布団で寝ていた。
あの丸薬は酔い止めでしかなく、妖気の感じ方を緩和させるだけで、体はしっかりとダメージを受けていたのである。
サク、マサノリといっしょに座敷に、たどりついた途端、オレは電池が切れたみたいにばったり倒れた。
だから倒れた理由は物の怪アレルギーであり、チカとのことが原因じゃない。
「司ばっかり、リア充してんじゃん」
「嬉しい誤算だよね」
チカの向かい側に座るサクとマサノリが、にやにやしている。
「うるせえ」
絶対チカにキスされたの見られてた。
くっそ。
掛布団を引きあげて赤面する顔を隠す。
「あれー? お眠でちゅか司ちゃん」
「お若いことで」
回復したら一発ぐらい殴ってもいいよな。
掛布団を握りしめつつ、茶化すサクとマサノリへの復讐を誓う。
「司ちゃん。口吸いなんて珍しくもないでありんすよ」
ふたりのからかいにチカまで便乗してきた。
「いい加減告っちまえよ」
「幼なじみにけじめつけた方がいいんじゃないの司」
しつこいサクとマサノリに声を荒げようとした時、障子が開いた。
「ナヲ! アンタやるじゃないか。もう身請けの話がきたよ! やっぱりニンゲンの娘は違うねえ」
恐ろしい報せにオレは飛び起きた。
ほくほく顔のお歯黒べったりが部屋に入ってくる。
人間世界での身請け話なら苦界から抜け出す喜ばしいことだ。
でも、この世界での身請けは意味がちがう。
「い、いやでありんす! あちきは司ちゃんたちと遊びたいんでありんす」
「ナマほざくんじゃないよ人間の小娘が!」
お歯黒べったりが力任せにチカを平手打ちした。
「なにするっ……」
掴みかかろうとしたが、オレは、ぐらりと布団の上に倒れこんだ。
「司!」
「だいじょうぶか?」
サクとマサノリの呼びかけは、はっきり聞こえているのに、手足に力が入らなかった。
「この子はウチの花魁。あんたたちの仲間とは違うんよ。まぁ、あと一日もすれば、あんたたちもここの住人になるけどなぁ」
真っ黒な歯を覗かせて、にいいと楼主が笑う。
「ほら! とっとと準備するんだよ!」
「司ちゃん! 司ちゃん!」
チカの叫び声が頭に響く。
花火の後から脳内を満たしていた浅はかな妄想が憎い。
立ってチカを助けないと。
たぎる想いとは裏腹に体は重く沈んだまま動かせない。
オレだけまだ夢の中いるのだろうか?
夢を見ている時どんなに叫んでも声が出なくて、どんなに力を込めても手も足も動かなくて。
まさに今、オレはその虚無感が痛かった。




