15
「あっ! 司、チカせんぱーい」
露店が並び始める場所でサクが大きく腕をふっている。
その横ではマサノリが物の怪女子のハーレムを形成していた。
「サクちゃんだったでありんすね。あちきはナヲでありんす!」
「ごめんチカ先輩。でもチカ先輩はチカ先輩なんだからチカ先輩でいいじゃん」
「あちきはナヲでありんす!」
サクの主張にチカもムキになる。
永遠に平行線をたどることが、余裕で想像できた。
「その様子だと記憶は戻ってないみたいだね」
「なんかの拍子にチカの言葉が出るけど、ほんとに一瞬だけで」
眉を下げるマサノリに露店を回っていた時の状況を話す。
記憶を思い出す、わずかな兆候を突破口にできればいいのに。
わずかなものは本当にわずかで、偶然表面に過っただけなのかもしれない。
「他にチカ先輩と共有してた思い出って何かある?」
「あとは、露店回り終わったら、鶴亀堂の裏で花火くらいだな」
ここで再現できそうなのは、もうそのくらいだ。
『なんだい花火をするのかい? この間還ってきたのが人間の花火を真似して作って売ってるよ』
マサノリに、まとわりついてる物の怪女子のひとりが、ある露店を指差した。
「ヤシチ」
同じように目的の露店までヤシチに運んでもらい、売っている品物を確認する。
商品棚には手で持つタイプの花火が山になっていた。
オレは手当たり次第購入すると、すぐにみんなの元に引きかえした。
* * *
物の怪女子に花火ができる場所を教えてもらい、オレたちは海辺に来ていた。
「修旅感、半端なくね?」
「地元が、海なし県だしね」
『ちゃんと水を入れてくれるんだろうね』
サクが持っている桶の物の怪が念を押す。
「だいじょうぶだって。海に使い終わった花火を入れたらダメじゃんよ環境的に」
できればバケツを用意したかったのだが、時代背景的に不可能だった。
「火力は任せたよ」
『うふふん。マサちゃんのためならいくらだって燃えてあげちゃう』
マサノリの横で浮遊している鬼火が、ごうごうと体を揺らした。
夏休みの一コマらしき状況のはずが微妙にズレている。
沖にも怪火が連なっているし、いくつもの大きな黒い影と無数の光が波の中からこっちを見ていた。
かなりヤバイ状況なのに何も感じなくなっていることに慣れって恐ろしいなと思った。
「人間は花火を手で持つんでありんす?」
チカが花火片手にしげしげと眺めている。
「打ち上げ花火も作りますよ」
花火なんて、何度も体験しているはずなのに。
何も覚えていない物の怪になりかけている幼なじみ。
歪な光景を色とりどりの火花が照らした。




