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「上手に食べるね」


 不意に、またチカの声でしゃべった。


「チカ?」


「あちきはナヲでありんす!」


 名前を呼べば不機嫌に返されてしまう。


 なんなんだよ。


 思わせぶりに顔を出す“チカ”に喉がひくついた。


 泣きたいような叫びたいような言いようのない感情が胸の奥で吹きすさぶ。


「もうっ……」



 本当は思いだしているんだろっ――?


 残りの言葉は声にできなくてオレの中にすとんと落っこちた。


「次は何味でありんす?」


 ヤシチたちにねだられ、チカは次のたい焼きを手にしていた。


 異様な光景のはずなのに、そこだけは平和そのものに見える。


 なんだか自分だけが取り残された気分がじりじりと内側で焦げついた。


『うええええええええっ!』


「うわあっ!」


 いきなり下からギャン泣きが聞こえる。


 立ち上がった拍子に、オレは、べしゃりと地面に倒れた。


「夜泣き岩でありんす」


 チカは涼しい顔でヤシチたちにたい焼きを配っている。


 今まで座っていた岩の方を見れば目と鼻と口があった。


 物の怪とは気づかずに座っていたとは。


 いつもなら秒で卒倒しているのに。


 丸薬の効果と妖気が蔓延する中に長い時間いたせいで、感覚がおかしくなっているようだ。


「夜泣き岩に腰抜かすなんて。おにいさんは情けないでありんすなぁ」


(おまえだって人間だっての)


 ころころ笑うチカは花魁そのもので。


 たった今現れた“チカ”のほうが、幻の存在なのかと思ってしまいそうだった。


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