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「甘い雲なんて初めて食べたでありんす」


「甘いものが続いたから、しょっぱいのがとても美味しいでありんす」


 わたあめ、イカ焼きと彼女が一昨日話していた物を一通り食べさせたものの人間だった時のことを思いだす兆しはなかった。


「あの魚は、なんでありんす?」


「あれは、たい焼きです。えーっとケーキっぽい生地の中にあんこが入ってるんです。粒あんにうぐいすあん、カスタードクリームも入ってて。最近はチョコレートやお好み焼き風にしたものもあって」「これひとつずつ全部でありんす」


 説明を聞き終わらない内にチカは全種類を注文していた。


「さ、あそこでゆっくり食べるでありんす」


 紙袋を抱えて幸せそうな彼女は、道脇にあるふたつの石を見やった。


「あれ? どれがどれだか分からないでありんす」


 渋い顔でチカは、がさごそと紙袋を漁る。


 大抵は中身が区別できるように配慮されているのだが。


 やはり物の怪。


 人間の常識は通じないらしい。


「半分に割ればいいんじゃないですか?」


「そんなことしたらたい焼きがかわいそうでありんす」


 まさかの反応に面食らう。


 かわいそうって、それなら齧る時点で痛いのでは?


「ちゃんと食べるんですから、いいじゃないですか」


「せっかくこの形になってるのに。割ったらかわいそうでありんす」


(女子って妙なところこだわるよな)


 ひと口食べて確認、では、また悩むことになってしまう。


 打開策に悩んでいると足元からぴい、という鳴き声がした。


「この量オレたちふたりじゃ食べきれないですよ。ヤシチたちも食べたがっているし。こいつら小さくしないと食べずらいと思います」


 オレの言葉を聞いて三匹がぴいぴいとねだってくる。


 こじつけな提案だけど、理にかなっているはずだ。


「仕方ないでありんすね。みんなで食べようと思って買ったでありんす」


 ふわりと笑ったチカがたい焼きを割った。


「黄色いあんこでありんすか?」


「それカスタードクリームです」


 割口から卵風味のクリームが顔を覗かせる。


「司ちゃんは、この味が好きでありんす?」


「オレは、あんこ一択です」


「じゃあもう少し小さくして……。どうぞお上がり」


 ふたつにしたのを更にふたつに分けるとチカは三つを懐紙に乗せて地面に置き、ひとつを自分の口へと運んだ。


 ヤシチたちは器用に手で掴むと、もしゃもしゃ食べはじめる。


 昨日の鶴亀堂で三匹が駄菓子を食べていた光景とダブった。


 半日くらいしか経ってないのにすごく遠く感じた。


 目頭が熱を持って落ちそうになる。


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