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「自主的にこっちへ戻ってくる物の怪もいるらしいよ」
マサノリがつけ足す。
きっと骨子と氷子から聞いたんだろう。
ほとんどが人間界に居座るとはいっても、ごくわずかに里帰りするやつはいる。
手土産に向こうの物を持ちこんだ結果のようである。
「大チャンスだよ司!」
「は?」
「これだけ再現率半端ないってことは、疑似体験効果もすげえってことじゃん!」
感心とあきれを一度に味わっていると、いきなりマサノリとサクに両脇を挟まれた。
「チカ先輩の記憶も戻りやすくなるよ」
「どうせ今年も物の怪還したら夏祭りデートだったんだろ」
「デートじゃねえっ!」
照れんな照れんなとふたりはオレの反論をスルーしている。
幼なじみの巻きこまれ行事だっての。
「三人とも何してるでありんすか! 早くこっちに来るでありんす」
やばい。
うっかりチカから目を離していた。
あわてて駆けよると「むぐっ」何かを口に突っこまれる。
反射的に咀嚼すればチョコレートとバナナの味。
(覚えてないのに宣言通りかよ)
一昨日の帰り道での会話が思い出された。
チョコバナナとかき氷と、わたあめとイカ焼き。
毎年のヘビロテメニューが。
「これ甘くておいしいでありんす」
ぱくり、とチカはオレに齧らせたのを口に入れている。
(え? え?)
オレが食べたチョコバナナをそのままチカが食べている。
ということは……。
「間接キスだね」
マサノリの一言にオレは飲みこみかけてたものを吹きだした。
「汚いでありんす! あちきが食べさせたのが不満なんでありんすか⁉ もう司ちゃんにはあげないでありんす」
理不尽すぎる。
今のは不可抗力だろ。
マサノリが、はっきり言わなきゃ、ちゃんと胃に入ってるはずだ。
咳きこんで涙目になっていると、チョコバナナの残りを食べているチカの光景が、にじんで視界に映る。




