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「クソガキはこれ飲んどけ」
なぜかシロガネがいる。
さっき出て行ったはずなのに。
今更ながら本当に神出鬼没だ。
「なんだよ。この見るからに毒薬な玉は」
押しつけられた印籠を開ければ紫色の丸薬が入っていた。
強烈な胃薬みたいな匂いがする。
「酔い止めだ」
「そういうのあるんなら普段から出せって」
「アホ。こんな妖気が充満している世界でおまえの体がもつわけねぇだろが」
シロガネの指摘に絶句するしかない。
「ここに長く留まれば留まるほどおまえの場合は命が削られる。今の状況が生きるか死ぬかの問題になるって自覚しろ」
希望が見えたと思ったら、もうひとつの問題が浮上した。
* * *
お歯黒べったりに交渉したらあっさり外出許可出た。
きっと最後の悪あがきだと、お情けでもかけてるつもりなんだろう。
『出かけるなら懐がさびしいと困るでしょう』とご丁寧にお小遣いまで持たせてくれた。
「うわ。あれドラゴン?」
サクが花火に照らされる空を飛ぶ物の怪を指差す。
江戸時代みたいな瓦屋根の群れの上を鰻みたいに移動していた。
「龍だよ。蛇体型なんだから」
スマホで撮影するマサノリが不機嫌に答える。
「竜って英語でドラゴンだろ? いっしょじゃん」
「違う。西洋の竜と東洋の龍はまったくの別物!」
専門知識があるだけに誤りにも厳しい。
「人間のおにいさんたちは龍も知らないんでありんすか?」
オレの横にいるチカがあきれた口調で言う。
「あの、手つかまりますか?」
彼女はめっちゃ厚底の下駄で歩くのもカタツムリ状態だ。
頭だって簪が生け花みたいに刺さっているし、ド派手な着物と滝みたいな帯が重そう・・・・・・じゃなくて絶対重いだろ、それ。
道も舗装されていないし転ばないかものすごく冷や冷やする。




