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『わざわざ挨拶に来てくださるなんて律義な人間様ですねえ』
チカ、もといナヲに居場所を聞き、オレたちは一階の奥にある座敷に来た。
目の前にいるのは時代劇に出てきそうな女性だった。
大きな珊瑚の簪を挿していて、ちょっと着物をくずしているところまでは……。
サクが小声で耳打ちする。
「なぁ、このひとっていうかこの物の怪、口しかないじゃん」
「あれは、お歯黒べったりだよ」
マサノリが即返答した。
なるほど、歯が焼きのりをくっつけたみたいに真っ黒だ。
『器量のいい人間様の女の子も来るし、今日はなんていい日でしょうねえ』
歌うような口調でお歯黒べったりは茶を淹れる。『冷めないうちにどうぞ』と勧められ恐る恐る口をつけた。
うん。普通の緑茶だ。
『ナヲの身請けの代金を聞きたいんでしたねえ』
耳におくれ毛をかける仕草をして、一列に正座するオレたちを見回す。
表情は伺いしれないけれど何かを企んでいるような感じがした。
そして彼女が言った数字に耳を疑った。
サクは目を白黒させていてマサノリも口を引きむすんでいる。
『人間様はとっても貴重ですからねえ、これでもお安いほうですよ。ちょいとばかり、とあたしらの同胞がそちらの世界に行ったきりなんてのもザラで。猫又の手も借りたいって言うんでしたっけねえ』
告げられた単位は“両”で、どこまでも時代劇な世界だ。
オレもレート換算できないが、かなりの金額なのは把握した。
『その額面でしたら惜しいですけど、あの子を差しあげますよ』
お歯黒べったりは鼻で笑う。
ここでは右も左も分からない非力な人間の子供。
一見友好的な対応をしていてもオレたちは足元を見られていた。




