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よく時代劇で遊女が話しているみたいな感じの。
そして彼女は『どこのおにいさんでありんす?』って言っていた?
「今、こいつには人間の頃の記憶は無ぇ。廓の新造としての素養が植えつけられている」
シロガネから聞かされた事実は、妖気でやられまくったオレの心身にどすっと刺さった。
「……だったら、なおさらさっさとここから出ないと」
力が入らないのにオレは彼女の手を引っ張ろうとした。「はなすでありんす」とハエを払うみたいに手が離れた。
それがとどめだったのかオレは畳に膝をついていた。
人間の頃の記憶がないってなんだよ?
鳥居くぐって一日なんか経ってないだろ。
考えたところで何もならないのに。
理屈では理解していても感情が納得しない。
「うっ……」
また吐きそうだ。
状況を完全には飲みこめなくて頭を動かすのはかなりの負荷らしい。
考えているのか、考えていないのかが、ぐちゃぐちゃと、へどろみたいになった。
「おまえたちだけならな」
「は?」
オレの様子など眼中にないようにシロガネが話の続きをする。
「こいつは今、人間と物の怪の狭間にいる。人間としての記憶を取り戻さないと出口すら見つからねぇ」
「よし! 囚われの姫君の記憶を呼び起こさせればいいんだな」
まかせろ、とサクが即行動に移した。
自己紹介から始まり、チカとオレが幼なじみ同士で、駄菓子屋に四人で集まっては騒いでいること、物の怪を捕獲していることを話して聞かせる。
「記憶を取り戻さないと出口すら見つからないって。十六日までに思い出させるなんて無茶だろ!」
記憶喪失なんて治療法が確立されていないし、いくらなんでも、あと三日でどうやって?
「つまり、お盆明けにまでに鳥居をくぐらないと帰れなくなる。そして人間じゃないと人間の世界には戻れないってことですか」
マサノリがオレの背中をさする。
大声出したら余計に気持ち悪くなってしまった。
自分の声が頭にガンガン響く。
「で、司はチカ先輩のことが、す」
「サク! それはしゃべんなくていいっ!」
記憶を取り戻す材料にはならない話題をノリノリで話すサクに、オレは再度叫んだ。
「司。体調悪いのに大声出し過ぎだって」
静かに話しかけてくれるマサノリの気づかいに涙が出る。
「えー? じゃあ他になんのエピソードがあるんだよ」
サクがつまらなそうに抗議してきた。
へどろ状態の頭でも無意味な話題だと分かる。
どうやっても記憶には関係ないだろ。
弟としか思ってない幼なじみが片思いしている情報なんて。
心の中までは見えないのだから。




