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「今のも物の怪? 美人多くない?」


 サクが少々鼻の下を伸ばしている。


「サク。相手は物の怪だよ。正体表したら何になるか分からないからね」


 マサノリが剣呑な表情で釘を刺す。


 確かに見た目だけならモデルや女優みたいな感じだから仕方ないかもしれない。


(でも、やっぱり物の怪だから鋭い感じがする)


 アングラな職業だから独特の雰囲気があるけれど、そこに物の怪としての要素が加わると恐ろしさしかない……。


「とりあえず今すぐ危害を加えるとかじゃなさそうだな」


「おれらが鳥居を入った時もこんな感じだった」


「司が倒れた直後に数匹の鬼がオレたちをこの廓に運んだんだよ」


(まさかオレたちを食う気とか?)


 自分が気絶してる間にそんなことがあったなんて。


 鬼と聞いて真っ先に自分たちが餌になる図しか浮かばない。


牛太郎ぎゅうたろうとか呼ばれてたよな。あの三匹の鬼」


「牛太郎?」


 丑寅の方角が鬼門だからそういう名前なのか? など、どうでもいいことが想起された。


 遠くでは今も花火が打ちあげられていて祭囃子が耳につく。


 やはり、ここは二階らしく、眼下には江戸時代みたいな街並みが広がっている。


 あちこちで物の怪たちが跋扈している光景によく死ななかったなと背筋が寒くなった。


 長い廊下が死刑台に向かう道にも思えてきた。


「うわっ!」


 盛大な水音がしてサクが絶叫する。


「……え。魚? 鯉?」


 オレたちの真横にクジラ並みにでかい魚らしきものがいた。


 ぎょろぎょろした目玉でオレたちを凝視している。


 シャアッと口を開けたと思ったら、エイリアンみたいな鋭い歯が、びっしり生えていた。


 食われる! と感じた瞬間、魚は落下して泳いでいた池に戻った。


 大きな水柱が上がってクジラの潮吹きのようだ。


 動きだけならイルカショーの宙返りだと思われる。


「な、なんだよ。今の魚にしか見えないけど絶対魚じゃないやつ!」


 青ざめたサクがオレにしがみつくみたいにくっついてきた。


『あれは楼主が飼っている鯉です』


 うろたえていると案内役の物の怪仲居が『あちらに見えるのが電波塔です』みたいなバスガイドなノリで説明してくる。


(いやいやいやいや。ただの鯉じゃないだろ)


 全体の形は鯉っぽかったけれど、それ以外がまったく鯉じゃなかった。


『雑食のせいか巨大化してしまいましてねぇ』


 コロコロと笑う物の怪仲居に冷や汗が流れる。


 鬼の餌じゃなくて鯉の餌って、ある意味もっと拒否したくなった。  


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