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正確には使ったというより、単に投げただけだったが。
そのお陰で逃げる時間を稼げたのだから少しだけ感謝している。
「ほら立てる?」
小さく笑いながら手のひらを差しだされた。
しっとり湿っているせいで明るい茶髪が艶めかしい。
上気した頬と小麦色の肌から香る石鹸の匂い。
屈んでいるせいでバスタオルの合わせ目から胸の谷間がチラ見えしている。
(と、とにかく今は立つんだオレ)
チカの手につかまって立ちあがる。
とにかく手につかまって立ちあがることに集中しろと呪文のように言い聞かせた。
こんな無防備な恰好をしていてもオレの前じゃ気にしないんだな。
つまらない敗北感を気にしつつ、彼女の手を取って立ちあがりかけた時だった。
「エッ? わっあああ」
何かに足首を引っかけたオレはバランスを崩した。
とっさに目の前にある物をつかんだのに強度が足りなくて下へとずれる。
ガターン!
派手な音といっしょにオレは倒れてしまった。
(痛……くない?)
コンクリートの上に倒れたはずなのに
なんか最近も、こんなことあったよな。
あの時は顔の前面に、今度は顔の下にやわらかい物がある。
鼻から息を吸い込むと石鹸と甘い匂いがした。
頬の両側を挟む気持ちのいい物体。
手を握るとふわふわしている。これバスタオルだ。
そして目を開けたら視界は小麦色の世界だった。
オレが握っていたのはバスタオル。
バスタオルを巻いていたのはチカで……。
そこまで考えたところで答えが導きだされた。
(……これって、おっぱい)
そう意識したら一度経験済みのせいで、全細胞がこのやわらかい感触をがっつりと感じ取っている。
しかも今度は直にダイブしたので生々しい。
(てか、チカって着やせするタイプ? なんか、思ってたよりかなりデカい……)
頭の熱が一気に上がったと思ったら、鼻の中を温かいものが伝った。
「ちょっちょっと!」
小麦色の谷間に真っ赤な血だまりが形成されていた。




