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「お帰りなさーい」
私室のドアを開けたらチカの声に出迎えられて心臓が跳ねる。
直後にシロガネの声真似だと気づいて、いたたまれなくなった。
「単純だよなぁ。おまえも」
ベッドで、だらしなくごろ寝している狐男に無言で鞄をぶん投げる。
「人様に凶器を投げちゃいけませんって習わなかったのか?」
「てめぇは物の怪だろ」
予め取り出しておいた今日の課題を机に置いた。
量はあるけど、なんとかなるだろ。
とりかかろうとした瞬間スマホの着信音が鳴る。
チカからのSMSだった。
『おばさん平気だった?』
『いつも通り』
保健室での彼女の返事と同じものを返信した。
すぐに土下座姿のスタンプが送られてくる。
神隠し騒ぎのことをチカに責任転嫁している時点で、近所の野次馬連中と変わらないのに。
やはり当事者家族ということで、オレの母には申し訳ない気持ちが拭いきれないようである。
『平気だって! あれは口癖みたいなもんだし』と打とうとしたら、チカから返信が届いた。
『今日言い忘れたけど、牡丹餅作るから食べてよね』
女子の思考の切り替わり早すぎ。
どうせ今年も、もち米にあんこつけて丸めるのやらされるんだろうな。
『きな粉のヤツは?』
定番の粒あんもうまいけどきな粉のも捨てがたい。
送信する寸前に、また返信がきた。
『きな粉のも作るよー。いっしょに丸めてね』
(やっぱり)
想像のまんまで笑うしかない。
『? ! ぜぜぜn*「zえrお』
(なんだこれ?)
意味不明の返信に首を傾げる。
暗号かと思い、画面を凝視した。
『いまのヤシチが送っちゃったやつ』
ヤシチかよ。
大真面目に解こうとしていた自分が、あほらしくなった。




