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「……ばあちゃんには負けてるな」
「意地張らなくてもいいのよ~。司ちゃん」
きゅうりを咀嚼して、ふくらんだ頬をチカがつつく。
毎日ぬか床を混ぜている彼女の手は、いつもすべすべしていて、きれいだ。
「ナスは一昨日入れたばかりだから、食べ頃は五日後くらいかしらね」
五日後。ちょうど盆明けが過ぎている。
「楽しみにしててね」
「丸ごと突っ込んだから時間かかるんだろ」
「やせ我慢しちゃって。きゅうり、もう一本持ってくるね」
心の中を読まれて、つい憎まれ口を叩いてしまった。
冷蔵庫からぬか床を取り出すチカを見つめる。
彼女は梅干しや佃煮を作るのもうまい。
こんな一面を知っているのは他人ではオレくらいだと思う。
ばりばり。
「ん?」
ちっぽけな優越感に浸っていると何かをかじる音がした。
「わっ! ヤシチ」
見ればほっぺたが横長になったヤシチがいた。
手の中にあったはずの残りのきゅうりは姿もかけらもない。
「おまえ食うなって! 出せよ」
つかみかかろうとすれば、サッとかわされオレは畳に顔面をぶつけた。
直後、頭が重くなった。
ヤシチが、のしかかったらしい。
こいつら三匹の妖気には、少し慣れはしたけれど、こんなに密着されたら当然気持ち悪い。
「ヤシチ。司に、なついてるね」
そんなわけあるかと反論したくても、顔面が畳に押しつけられてオレは何も言えなかった。




