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「ぶっ・・・・・・。こいつぜってーオスだよな」
「だね」
オレが痛さに悶絶する横でサクとマサノリは吹き出している。
「どうしたのよ。ヤシチ」
抱き上げられた彼(と言っていいのか)は、目を潤ませて甘えた声で鳴いた。
「いいこ、いいこ。よしよし今日もいっしょにお風呂入ろうね」
頭を撫でられ嬉しそうな顔をするヤシチに殺意が湧く。
(こいつ動物・・・・・・。いや物の怪なのをいいことにちゃっかりし過ぎだろ!)
実際にオスかどうかは不明だけれど、態度からしてどう見てもオスだ。
「強力なライバル出現だね。司」
マサノリの指摘が痛い。
オレだって幼稚園くらいの頃は、チカといっしょに風呂に入ったのを微妙に覚えている。
まだ男女の意識なんてなかったし水遊びの延長だった。
横目にチカを見る。
・・・・・・やっぱり、あの頃より女っぽくなった。
懐かしさに健全な男子としての意識が重なって少々罪悪感が出る。
十年以上前のことだから、もう時効だと頭で開き直った。
今日みたいに暑い日は、水風呂にも入ったな。
湯船の水を、ばしゃばしゃかけあって。
心地よい冷たさが蘇る中、足首には、べたりと何かが巻き付く感触が思い出された。
……物の怪に足を引っ張られて溺れかけたんだった。
(今となんにも変わらねぇじゃん)
「だいじょぶか? おでこ、まだ痛むか? かまいたちの妖気のせいか?」
「ああ、いや。少し痛いだけ。こいつらの妖気はちょい慣れた」
黒歴史に肩を落としているのを体調不良とサクに勘違いさせたらしい。
「みんなすごいねぇ。司に免疫をつけたんだよ」
なんでこいつらの手柄になるんだ……。
チカにほめられ三匹は得意げに空中で一回転した。
硬い胡麻煎餅を奥歯で噛み砕きながら、もやもやした気持ちを喉に押し込んで、ぬるくなったラムネを飲み干した。
かまいたちの妖気は札のおかげで多少抑えられている。
クソジジイが作った札には、そんな効果もあるようだ。
「じゃ、ごゆっくり。追加で買うならレジにお代を置いといてね」
カップめんを食べ終えチカが立ちあがった。
竹ぼうき片手に店の裏へと歩いていく彼女の後をオレも追う。
背後から「もっと頑張れよ」という友人ふたりの余計な応援は聞き流した。




