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「司もいじわる言わないで。ヤシチにお礼言ってよ」


「ああ。ありがとなヤシチ」


 ずいっとヤシチを持った手を突き出されて、目を逸らし棒読みで社交辞令を述べた。


「よかったねヤシチ」と言うチカを横目に、ため息を吐く。


 ふと空を見上げれば。……やっぱり色々飛んでいる。


 何にもないのに物の怪は腐る程いる。


 盆入りのせいもあるだろうが、周囲を山に囲まれている地形のせいもあるんだろうか。


 町からは遠景に三つの山を一望できる。


 かと言って山深く緑豊かな風光明媚な場所じゃない。


 築年数三十年はきっちり経っている昭和と平成ごちゃ混ぜの住宅街だ。


 インフラも整備されているし、携帯も通じる。


 電車もバスも一時間に何本もあるし、車がなくても生活しようと思えばできる程度になっている。


 かと言って新幹線は隣接の市止まりで、間違っても東京のような都会じゃない。


 絶対的な田舎でもなく都会的でもなく。


 中途半端な田舎、としか言いようがない。


「雨宮さんとこの息子と社さんとこの娘だ」


「よくいっしょにいられるねえ」


「やっぱり頭がおかしいんだよ。神隠しに関係しているから。なんか視点が定まってないし」


 その証拠に現代的な生活環境のわりには妙な因習だってこびりついている。


 道から少し奥まった場所にある畑から、ひそひそ話が聞こえてきた。


 顔を向ければ中年夫婦らしき男女が、あからさまにそっぽを向く。


 都合のいい時だけ、あるのかないのか分からない神隠しを理由にする。


(視えないって幸せだよな)


 視えない人間は、視える人間を遠ざけて自分たちと区別をすれば済む。


 多様性なんてこの中途半端な田舎には無意味な言葉だ。


 


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