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要領のいいところはまさに狐だ。
「まったくいい加減よね。先生が今日はもう帰っていいって。あと、これを明日までにやってこいって」
チカがオレの鞄の中からプリントの束を取り出す。
毎日補習に参加してはいるけれど、オレは一度も終わりまでいたことがない。
補習を補うための課題を翌日提出する無限なルーティン。
救済措置に救済措置の上乗せという皮肉な状況にも慣れ過ぎて、乾いた笑いしか出てこない。
毎年名ばかりの夏休みが虚しく通り過ぎていく。
「もう少し休んでから帰る?」
「オレのことより、ばあちゃんだいじょうぶなのかよ」
「病院のベッドで元気にしてるよ。司ちゃんによろしくって」
「冷てっ」
不意に首筋がひやっとなった。
チカが凍ったスポーツドリンクのペットボトルを押しつけてきたのだ。
「ちゃんと飲みなさいよ。具合が悪いことには変わらないんだから。これで熱中症にまでなったら悲惨よ」
「分かってるっての」
幼なじみの女って、どうしてこう、いちいち口うるさいんだろうか。
仕方なく開栓して、ひと口飲む。
半分解けた中身は甘ったるくて、ぎゅっと濃縮した冷たさだった。




