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校長のほうに気を取られていたのと、体育館に充満した物の怪たちの気配で感覚が麻痺していたらしい。
とにかく無視だ。
意識を向けたら負けだ。
『あれ? なんの抵抗もしない。よわそうよわそう』
黙っていれば好き勝手言いやがって。
(重い)
ひたすら聞こえないふりをしている間も、体が地面に引きずり込まれていくように重たくなっていく。
同時に血まで吸い取られている気分だった。
頭がふらつく。
やばい。倒れる。
そう思った瞬間にオレはブラックアウトしていた。
顔にゴム臭い床の匂いがまとわりつく。
「うわーまじ?」
「やだ。呪われる」
「やっぱ神隠しにあう家系だから悪霊とかとりついてんだよ」
(家系じゃねぇし! 神隠しにもあってないから!)
頭の中では反論が次々浮かぶけれど、体が動かせない。
「また雨宮か」
「はあ、厄介な生徒が入学したもんだ」
「どうせ浪人確定でしょう」
教師陣の要らぬ本音まで聞こえてくる。
いくら倒れているからって、聞いてないとでも思っているのだろうか。
そういうのは本人のいないところで言ってくれ。
また、これでぼっち記録更新か。
せめてふつうっぽい高校生生活を送りたかった。
これでまた噂にでっかい尾ひれがつく。
「うおおっ! 傷は浅いぞ! しっかりしろ我が友よ」
全身ぐらぐらなのに、うるさすぎる。
弱っている体には、明るい声は凶器だ。
元気のあり余った声が、鼓膜に反響して余計に頭がガンガンしてくる。
しかも何その厨二病な台詞。
内心、声の主に軽蔑の目を向けた。




