人は見かけによらない②
黒いワンピースにフリル付きの白いエプロン。
フリル付きの黒いサイハイ。
レースの付いたカチューシャ。
ユキはメイド服を着ていた。
「こ、これでいいですか?」
たどたどしい足取りでトイレから出てくる。服はぴったりだが、底の厚いストラップシューズはブカブカだった。
「うんうん」
「よく似合っておりますよ」
ベッドに座った二人はそれぞれ称賛の声を上げた。軍服に慣れたユキにとっては丈の短いスカートはスース―して落ち着かない。
「せっかくだから髪型も変えたらどうだ?」
手招きし、ベルと挟むようにしてユキを間に座らせた。
「どうしてポニーテールなんだ?」
カレンはユキのカチューシャを取り、髪をほどいた。慣れた手つきで櫛を使ってとかしていく。ユキの方もされるがまま、借りてきた猫のようにおとなしくしていた。
「一番簡単ですし――」
少し大人っぽく見えるからと小声で続けた。
「ユッキーは童顔でありますからね」
「そうなんですよ。年相応に見られなくて」
「羨ましい悩みだな」
髪を束ねていく。
「それにしても髪質いいな。わかめの力か?」
「いや、普段あんまりわかめ食べてないですけど」
「じゃあシャンプー……いや、トリートメントの力か! メイドインジャパンの力か!」
「体質かもしれないですね」
カレンは立ち上がり、反対側の髪も束ねていく。
「体質か。私はしっかりトリートメントしないとすぐパサつくから羨ましいよ」
カチューシャを付け直した。
「はい、完成」
クローゼットの扉を開き、裏に付いた姿見をユキに向ける。
「な、ななな――」
そこには黒い大きめのリボンでツインテールが束ねられたメイド姿の自分が映っていた。
朱に染まる顔を両手で隠し、ふさぎ込む。
「恥ずかしくて直視出来ません!」
悶えるようにして地団駄を踏むユキと鏡の間に立ったカレンは、両手を彼女の肩に乗せた。
「恥ずかしがることないぞ。すごく似合ってる。メイド服とツインテールならこの基地ナンバーワンだ。私が保証する」
隣でベルが冷やかな視線を送っているのにも気づかず、彼女は力説を続ける。
「ツインテールが似合うんだからセーラー服だって似合うはずだ。それにその黒髪なら巫女服も似合うぞ。いやあ、楽しみだな」
息づかいが荒く、語尾にクヒヒという笑い声が顔を出すようになっていた。そろそろ止めないと他人を使ったひとりファッションショーでもやりそうだ、と冷静に分析していると、不意にユキが動きを止めたことに気付いた。
顔を隠していた手が離れ、死んだ魚のような目が現れる。
「カレンさん、そんなことないですよ――」
念仏を唱えるように抑揚のない口調でぶつぶつと呟き始めた。突然の変化に二人は目を見開いて顔を見合わせた。
「私なんかがこんな格好したって、どうせ……顔も身長も胸も成長をどこに忘れてしまったんだか、育つのはこの髪くらい――」
精神への急激な負荷に防衛本能が働いたのかもしれない、と冷静に分析するベルの横でカレンはあたふたしていた。
「ユ、ユキ、すまん。なんか変なスイッチを入れてしまったみたいで、なんというか……ほんとすまん」
肩を掴み、我に返れとユキの体を揺する。
ベルも横から加勢した。
「ユッキーは可愛いでありますよ。美少女ですよ」
「ベルの言うとおりだ。コスプレさせたくなるほど可愛いぞ。それに、顔も胸も成長すればいいというわけじゃないだろ」
「……本当ですか?」
少しずつ目に生気が戻り始めた。頭を撫でながら言い聞かせる。
「もちろんだ。世の中には成長前・未発達を好む人だっているんだぞ」
「本当なのはそっちですか」
もちろん可愛いというのも本当だと急いで付け加えた。その慌て振りに真剣に悩むのが馬鹿らしく思えてくる。
ユキのネガティブスイッチがオフになった。
「ありがとうございます。そんなに可愛いと連呼されると恥ずかしいですね」
彼女は立ち上がり、再度鏡に映った自分の姿に目をやる。
「この服、私でぴったりですけどカレンさんだと小さくないですか?」
「私は着せるのが専門だから問題ない」
「そんな専門があるんですか?」
呆れ顔のユキ。
「ほら、デザイナーとモデルみたいな感じだ。というか、ユキ、お前がジト目をするとその容姿に加えて普段とのギャップでちょっと背徳感があるな……クヒ」
「え、ジト? なんで背徳感を嬉しそうに語ってるんですか?」
カレンはハハハ、と誤魔化した。鏡の横に立っていた彼女はふとベルに顔を向けた。
「ところでベル、何しに来たんだ?」
「自分の用はもう済んだでありますよ」
その言葉を聞くや否やカレンは目を見開き、1歩後ずさる。
「まさか、ユキのコスプレ姿を見に来たのか!」
「いや、前みたいに無理矢理コスプレさせないように注意しに来たのですよ」
そんなことかと肩を落とした。
「滑り込みセーフだったな!」
しっかりアウトです、と隣から声が聞こえたがそれはあえて無視をする。
ユキを部屋に招いてからだいぶ経っていた。特に、着替えとネガティブスイッチをオフするのに時間を費やした。
「ユキ、そろそろ部屋に戻るか?」
「はい、カレンさんも忙しいですよね」
「え、あ、まあ、そうだな」
そうでもないのか、と思いつつ着替えるためにトイレへと歩き出す。
その行く手にカレンが立ち塞がった。
「待て待て、まだ記念写真をとってないだろ」
「記録に残す気ですかっ!?」
バランスを崩し、カレンにもたれ掛かる。サイズの合わない靴ではツッコミの勢いを御しきれなかった。謝るユキを抱えるようにしてニヤリと笑う。
「ユキは私が見たいときに着替えてくれるのか? 好きな時に好きな服を着てくれるのか? そうなのか?」
グイグイと顔を近づけてきた。
「わ、分かりました、分かりましたから」
プレッシャーに負けるような形で渋々了承した。
「ユッキーは押しに弱いでありますね」
「悪い奴に騙されそうで心配だ」
それは現在進行形ではないのかと思ったが、話が長くなりそうだったので再び黙っていた。
写真を撮るからとベルはベッドからどかされ、どこからか持ってきた本格的なカメラを片手にポーズの指示をするカレンはとても生き生きとしていた。




