人は見かけによらない
カレンたちと別れ、ユキは居住区に戻った。
自分の部屋で荷解きを始める。といっても、これほど充実した個室だと思っていなかったので持ってきた荷物はとても少ない。
「ふう、とりあえずこんなものかな」
すぐに使うものだけを出し、残りはそのままクローゼットの下に押し込んでおいた。荷物を全て詰め込んでも半分ほど空いている。
壁のタッチパネルが呼び出し音を鳴らしながら光った。画面を見ると小首を傾げたカレンが映っていた。
「ユキ、荷解きは終わった?」
開錠してカレンを招き入れる。
「終わりましたよ。あまり荷物持ってきていないので」
「そうか、はやいな」
軽く部屋を見回し、荷解きがひと段落ついたのを確認した。
「それじゃ、今から私の部屋おいで」
左手がユキの肩を掴み、右手がグッと親指を立てた。
「まだお互い名前とか階級とかしか知らないだろ? 自己紹介も兼ねていろいろ紹介したいものがあるんだ。趣味とかな」
ユキが返事をするよりも早く彼女の腕を掴み、自室へと歩き出した。
「あの、カレンさんの趣味ってなんですか?」
「見れば分かるよ」
カレンの横顔は純朴な笑みを浮かべている。彼女の部屋はユキと同じの並びの一番奥、ソフィアの正面だった。
「ようこそ、我が家へ」
これといって飾り気のない質素な空間だった。ただ、所狭しとハンガーラックが並んでいる。
「狭いからベッドにでも座って」
言われるがまま部屋の奥へと進み腰を下ろした。ベッドの前にはハンガーラックが三つ並んでいる。いずれもカバーが掛かっているので中は見えない。
カレンはその正面に仁王立ちし、カバーのジップに手をかけていた。
「私の趣味は、これだっ!」
一息にカバーを下ろすと、そこには様々な職業の制服が並んでいた。その種類は警察官、キャビンアテンダント、コンシェルジュ、看護師、牧師、バスガイドなど多岐にわたり、それぞれ色違いまで揃っている。
制服を集めるのが趣味とは珍しいと思っていたユキの前で2つ目のカバーが外される。セーラー服、学ラン、巫女、メイド、くノ一などの職業ではない衣装がそこにはあった。
もしかしてと思うユキの前で三つ目のカバーが外される。そこにはゲームやアニメのキャラクターの衣装が掛けられていた。そういった方面にあまり詳しくないユキでもそれが分かったのは、風もないのに靡いたままの形を保っているマントがあったり、細かい装飾のされた銃や剣が一緒にしまわれていたからだ。
「……コスプレですか?」
カレンの趣味は予想の斜め上をいった。
「その通り!」
親指を立てる。
「ということだから、ぜひ趣味を共有しよう。クヒヒ」
カレンがキョンシーのように両腕を上げてユキに近づく。ネコじゃらしを前にした子猫のような、獲物を狙う本能と無邪気さが共存した目。ピアノ奏者も真っ青なわなわなとうごく両手。普段の男勝りな口調もおっさんくさい口調になっている。
「ひっ……!」
ユキは今になってようやく自分の置かれた状況を理解した。
この部屋は蜘蛛の巣だ。
コスプレの衣装が用意され、唯一の出口であるドアまでの通路はカレンによって塞がれている。
糸が絡まり身動きできない状態になっていた。
「ほーら、痛くしないから。クヒヒ」
一歩、また一歩とカレンは近づく。
ユキはベッドに両手をつき、身反らしていた。先ほど廊下で見た純朴な笑みが今はとても不気味に見える。
「安心して、私にまかせなさい。クヒヒ」
カレンがユキを押し倒すのとドアが開いたのは同時だった。
「カレン隊長、今よろしいでありますか?」
跳ねる声と独特な口調。すぐにその声の持ち主は分かった。
「ベルさーんっ!」
涙混じりの声。
ベルが何事かと走り寄ってきたが、驚きの表情は一瞬だけですぐに呆れ顔に変わった。
「カレン隊長、またでありますか?」
カレンはユキに馬乗りになっていた。右手でユキの両腕を頭の上で押さえつけ、左手で軍服のボタンを外しにかかっている。
「ん、ベルか。なにか用?」
その状態のまま顔だけ向けて何事もないように話を始める。
諭すようにベルが口を開いた。
「ユッキーをコスプレさせたいのはわかりますが、そんな強引にしてはダメでありますよ。パワハラ、というよりセクハラです」
「衝動が抑えきれなくて、つい」
ハハハとカレンは豪快に笑う。冷静になった彼女は立ち上がり、ユキに手を差し伸べた。
「すまん、ユキ。ちょっと興奮してしまった」
カレンの手を取り立ち上がり、ボタンを締め直す。
「い、いえ、少しびっくりしました」
本当は少しどころではない。
「それで――」
改めてハンガーラックを眺めた。
「どれにする?」
「え……?」
「ん?」
二人の視線が交差した。




