買い物③
街は中心に大河の流れる、砂漠の中のオアシスのようなところだった。
広い道路が格子状に配置され、高い建物が点在している。繁華街のようなところはないが各所に店が並び、品揃えは豊富で店さえ知っていればあるゆるものが揃うといわれている。
車の通りは多いが、一般より一回り大きい軍用トラックはそれだけで目立った。
エリザが言う。
「車は駐車場に停めて、歩きで回ろうか」
「そうですね」
「その方がいい」
信号で止まる度に通行人からの視線が痛かった。武骨な軍用車に乗る私服の女性という状況を考えれば分からなくもないが。
大通りから一本入った路地裏に車を停め、三人は並んで歩き出した。人通りはそれなりだが歩道が広いため問題なく歩くことができる。
強い日差しは背の高い建物によって遮られていた。
「やっぱ昼間は暑いわね」
「普段この時間は地下にいますからね」
「直接日の光を浴びるのも久しぶりな気がするし」
「月光ならよく浴びてますけどね」
マリカの頭の中をモグラが横切ったが、言葉を飲み込んだ。
「日焼けしないように気をつけないと」
「日焼け止め、持ってきましたよ」
「後で貸して」
「了解です」
言葉の端々に軍人臭がするが、こうしていると普通の女の子にしか見えない。
マリカが言う。
「まずはどこに行くの?」
「ここからだと服屋かな。先に小物を買って回って、大きいのは車で直接買ってこうと思って」
「服ってマリアの?」
「そうそう。まあ、これはユキに一任してる」
マリカの視線に応える。
「小さい子の面倒見てたんで、何となく分かるんですよ」
「長女なの?」
「そんなところです」
わざわざ自分の生い立ちを詳しく話す必要もないかと曖昧に返事をした。
「意外とお姉さんなんだ」
「家ではそうですね」
エリザが言う。
「基地では年少組だけど」
「私とマリアちゃんですか?」
「あとラウラも」
ユキは首を傾げる。
「ラウラさん? エリザさんとそんな変わらなかったような……」
「実年齢ではなく精神年齢で年少組よ」
「精神年齢……もしかして、私のことバカにしてます?」
エリザは優しく微笑んだ。
「まさかそんな、ハハハ」
「絶対ウソだ!」
「ちなみに年長組は隊長とアルビナさんと姉御。他は年中組」
リリアさんは年中組なんだ,、とユキは心の中で呟いた。どこか納得してしまっていた。
マリカが言う。
「私も?」
「マリカは年長組かも。なんか落ち着いてるし」
「老けてるみたいでなんとなく喜べない」
「大人っぽいってことよ」
「そう、それならいいけど」
マリカはそう言って目をそらした。褒められて照れているようだった。
最初は凛々しく真面目な印象を受けたが、彼女は感情の豊かな人なのかもしれない。
ひときわ華やかな店の前でエリザが足を止めた。
「マリアの服、ここならあるんじゃない?」
人形やアクセサリーの飾られたポップな服屋だった。中には子供を連れた夫婦が何組かいる。
「こういうところ入るの初めて」
マリカはきょろきょろとあたりを見回していた。
「かわいい服ですね。サイズも多いですよ」
「ユキ、いつにもまして生き生きしてるわね」
少し冷めた視線を送るエリザに気付かずマリアに似合いそうな服を探す彼女はスイッチの入ったように回りが見えなくなっている。
熱中しているユキを放置して戸惑うマリカのもとへと向かった。
「アタシたち場違いな気がしない?」
「妹の誕生日プレゼントを買いに来た姉とその友達、って感じ」
二人の視線はユキに向けられていた。
「姉が一人ではしゃいじゃって、友達を置いてけぼりにしてるんだけど」
「もっと大人しい女の子かと思ったけど、意外と活発」
「普段はあんな子じゃないよ」
真剣な眼差しでサイズと値段を確認しては考え込んでいる。お姉さんというより母親だ。
「どっちがいいと思いますか、とか聞いてきそうで怖いな」
「私は答えられない」
「アタシも答えられない。というか、答えたくない」
「なんか自分の趣味を露呈しているみたいで恥ずかしい」
だよね、とエリザは苦笑した。
友達、もとい二人の心配をよそにユキの買い物はサクサクと進み、五着ほど選んだところでレジへと向かっていった。
「あ、決めたみたい」
「聞かれないとそれはそれで複雑な気分」
「…………」
なんとなくリリアさんに似ているな、とエリザは心の中でつぶやいた。




