立場と責任
シルム隊が基地に戻ったとき、ユキたちは既に街へと出発していた。
新たな装備を格納庫に収めるとメカニックたちがすぐさま換装の段取りを始めた。
「リリアたちはそのまま乗ってろ。すぐに付け替えるぞ」
「はいよー」
シゲフミの指示に従い三人はコックピットの中で待っていた。
「やっぱもう買い物班は出ちゃってたかー」
視界の隅にフライトユニットがパージされたことを示すアラートが表示された。
「もうお昼近いですからね」
「換装終わったら飛んできていいのお?」
「少しはいいんじゃないかー? 応援でいきなりっていうのも危ないし」
「やったあ! みんなで競走しようよお」
すっかり目の覚めたマリアはコックピットの中で足をバタバタさせている。
「もう、ヴィクトリアはおもちゃじゃないんだよ」
「新しい装備には慣れておいた方がいいでしょお?」
一理あるな、とリリアが珍しく彼女の意見に賛同した。隊長が言うならとナターシャも渋々頷く。
「あんまり無理な動きをすると後でシゲフミさんに怒られるよ」
「その時は逃げるもん」
「ウチが怒られるからそれはやめろー」
「それがリリアの役目なんでしょお?」
「ウチをなんだと思ってるんだー? ってか、それは誰に吹き込まれたんだ?」
「ソフィアが言ってたよお」
「ソフィアか……ソフィアは責任感強いからなー」
「リリアさんは放任主義ですよね」
「おっと、遠回しに無責任と非難されている気がするぞー」
コックピットが小さく揺れた。
「換装、終わったみたいです」
否定の言葉が聞こえないと嘆くリリアを無視して接続の確認を行う。
「リアユニットインターフェイス、パッシブセンサー、プライマリーコントロール……オールグリーン」
「こっちも大丈夫!」
「じゃ、さっそく行くかー」
「勝手にいいんですか?」
「大丈夫だろー」
ほら、と言われ格納庫内を見渡すと、作業を終えたメカニックたちが既に退避していた。
「私たちの行動パターンは想像ついてるみたいですね」
「ま、いつものことだからなー」
それを証明するようにシゲフミから通信が入る。
「これから試運転だろ? 動作確認が終わるまで無茶はするなよ」
「慎重に操縦します」
「ナターシャは心配していない。マリア、返事をしろ」
応答はない。
「マリア、聞いているのか?」
「……」
「おい、マリア」
「分かってるよお。だいじょーぶ、だいじょーぶ」
明らかな生返事だった。
「……リリア、お前が責任者だからな」
「やっぱウチなのかー。なんとなく分かってたけど」
格納庫の天井が開き、カタパルトが動き出す。
真南に位置した太陽の光が三色三機のフェンリルを照らし出した。
新たなフライトユニット、アイゼンフリューゲルは量産機と同じグレーに白ラインのため光に包まれたようだった。
「あとで塗装してもらわないとなー」
「そんな時間ありますか?」
「マリカのグレンデル塗るだろうから、その時にやってもらうさー」
「そういえば、カレンさんも色変えたいって言ってました。私と色が被っているので」
地上まで上昇し、格納庫から完全に隔離された。
「二機塗るとなると大変そうだなー。やってくれないかも」
「シゲフミさんならやってくれるような気がしますけど」
「たしかになー」
いつまでも話している二人に業を煮やしたマリアが口を開く。
「ねえ、もういい? まだ話つづくのお?」
「ああ、とりあえず巡回も兼ねて回ってくるかー」
スラスターの出力を上げる。
徐々にコックピットが揺れ始めた。
「新しいのはパワーあるなー」
出力が安定値に達し、一気に飛翔した。
シゲフミの忠告を無視してマリアがぐんぐん加速していく。そして、そのままヨーイング、ピッチング、ローリングと順番に挙動を確認していった。
「おおぉ! すっごい速い! 動きやすい!」
挙動に問題がないことが分かり、赤いフェンリルの動きが事務的なものから実戦的なものに変わっていく。
旋回に加減速が加わり、ヒラヒラと宙を舞い始めた。
ゆっくりと飛ぶ二人は遠くからその姿を見ていた。
「リリアさん、確実にあとで怒られますね」
「お、おう。それがウチの役目らしいからなー」
リリアが加速し、マリアを追いかけていく。
本当に競走するのか、とナターシャははしゃぐ二人を見守っていた。




