買い物②
三人掛けの真ん中に座るユキは変わることのない景色を眺めていた。
縦にも横にも揺れるがヴィクトリアで慣れているので問題ない。
問題なのは横の運転席にはエリザが、反対側にはマリカが座っていることだ。
横に揺れるとたまにぶつかる。一番立場の低い彼女としてはとても申し訳ない。
そもそもここは上座になるのではないのか、そもそも上座なんてあるのか、と心の中で問答をしていた。
「ユキ、買い物リストはちゃんと持ってる?」
エリザの声でハッと我に返った。
「はい、まとめてあります」
箇条書きにしてあるメモを読み上げていく。
「リリアさんはハーブティーとアロマ、ナターシャさんは特になし、マリアちゃんは洋服、カレンさんは裁縫道具と生地、ラウラさんはクマのぬいぐるみ、ソフィアさんは……ボディクリーム?」
「それは前買ってきたことあるから大丈夫、分かる分かる」
「化粧品ですか?」
「どっちかっていうと、なんというか……ダイエット用品?」
本人には内緒ね、と最後に付け足した。
「な、なるほど。それは、言えないですね」
ユキに続いて、マリカが言う。
「ソフィアさんはダイエット中?」
この基地の慣例に従い敬称は省略するようになった。
「隊長は基本体形気にしてるんだよ」
「グラビア体形でうらやましいけど」
ですよねー、とエリザとユキの声は揃った。三人は総じて細身だった。
街中で軍服は目立つため私服で来たが、その服装も似通っていた。エリザは水色のブラウスにパンツルック。マリカは白のブラウスにロングスカート。ユキは白のロングパーカーにパンツルック。紫外線を遮りつつ、風通しのいいもの選ぶと自然とこうなってしまう。
「マリカとユキは? 何買う?」
「私は部屋に置く机と椅子を買いたい」
「本を買いたいです」
「家具屋と本屋か」
三人の中で唯一街に行ったことのあるエリザが頭の中でルートを考えていた。ハンドルを握る指がリズムを刻む。
信号もなく舗装もされていない獣道のような砂漠の中を淡々と走っていく。
「エリザさんってこんな大きいトラック運転できたんですね」
ユキたちが乗っているのは六輪駆動の軍用トラックだった。悪路走行を前提としているため車高が高く、荷台は帆で覆われている。
「これくらい誰でも運転できるわよ」
「結構なスピードですけど」
「あんまり遅いと砂にタイヤを取られて危ないし」
速度を落とせば砂に捕まる。しかし、道を間違えても砂に埋もれる。目印のない獣道を一瞬で見極めていた。
並の動体視力と反射神経ではないな、と思いながら体を揺らしていた。
基地を出発してからだいぶ時間がたっていた。
基地を囲む防衛設備も、レーダー塔も既に遥か後方、目的地も遥か前方。全方位三六〇度砂しかない。
マリカが言う。
「エリザ、道……というか方向分かるの?」
周辺には砂しかない。太陽の位置で何となく方角が分かる程度だ。
「一本道だから道なりに進めば大丈夫よ」
初見の二人にはわからないが、エリザにはしっかりと道が見えているらしい。
「ちなみに、着くまであと一時間くらいかな」
「結構遠い」
「だから、たまにしか行けないんだよ。マリカは運がいい」
「勤務初日が買い物とは、噂以上に変わった基地」
「セカンドラインに比べたら天と地どころか別世界でしょ?」
「前の基地はすごい窮屈だった」
「どう? この基地でやっていけそう?」
「もちろん。むしろこっちの方が私に向いていると思う」
「へえー、意外。いかにも軍人って感じだから、生ぬるいところは嫌いかと思った」
そんなことはない、と景色を眺める彼女はどこか楽しそうだった。
開発基地しか知らないユキは二人の真ん中でずっと話を聞いていた。
「セカンドラインってどんなところでしたか?」
「とにかくバタバタしてた」
前線の一歩手前という常に緊張状態の基地だった。
「あそこにいると時間間隔がマヒしてきて、今が朝か夜かも分からなかった。休憩も自分で時間見つけて取るしかなかったし。でも、私たちが任務を怠れば前線が崩れるからやらないといけないし」
「大変なところなんですね」
子供の感想みたいになってしまったが、それしか言葉が見つからなかった。エリザの言っていたとおり別の世界の話のようだった。
「確かに大変だけど、やりがいはあった――世界守ってるんだなって」
リーゼの侵略を防いでいるのはこういった尽力の賜物だった。損得勘定ではなく責任感で保っている。
「ユキはどこから?」
「訓練学校から直接この基地でした」
「ここ、新人も募集しているの?」
ユキが初めて、とエリザが答えた。
「もしかして、前線に配属されたかった?」
「そんなことは……ただ、どこかの戦艦に配属されて各地を回るものかと思ってました」
「まあ、それが普通ね」
「でも、ここじゃなかったらクロツバキに乗れなかったぞ」
「そうですね。この基地でよかったです」
順当に戦艦に配属されていたら量産機のユニコーンに乗っていただろう。アイゼンフリューゲルにもツヴィリングにもハルピュイアにも出会うことはなかった。
それどころか――
もしかしたら、軍を辞めていたかもしれない。
もしかしたら、仲間を救おうと軍に敵対していたかもしれない。
今の自分があるのは紛れもなくこの基地の、この仲間たちのおかげだ。
ユキは心の中で独白した。




