買い物
日の出から間もない太陽が砂漠に影を作っていた。
ヴィクトリア用の巨大なコンテナを牽引する車両と、それを囲むようにフェンリルが三機。赤、青、紫と個性的なカラーリングをしている。
縦に伸びた影がゆっくりとしていく。
フライトユニットを装備しているため飛行することもできるが、車両の速度に合わせるため歩いていた。
飛行すると常にホバリングしているような状態になってしまう。
六つの足跡と二本の線を残しながら基地へ向かっていた。
回線は開いている。
「このペースだと基地に着くのは昼になりそうだなー」
やる気のない間延びした声はシルム隊の隊長、紫色のフェンリルからだった。
しかし、返事がない。
回線が開いていることを確認して、リリアがもう一度言う。
「このペースだと基地に着くのは夕方になりそうだなー!」
「到着予定時刻が伸びてます」
青のフェンリル、ナターシャが間をあけて答えた。
いつもならマリアが矢継ぎ早に質問を繰り返すところだが、彼女は黙ったままだ。
「誰もリアクションしてくれないからオーバーに言ったんだぞー」
「でも、このままだと本当に時間かかりますよ」
「一応護衛だから先行くわけにも行かないだろー」
大きなあくびが最後についた。
物資を運ぶならヴィクトリアが最も効率が良い。移動速度、積載量、離着陸条件などすべてにおいて通常の輸送機を上回る。ただ、費用が高い。そして緊急時の対応が遅れるという理由で許可されていなかった。
「こんなゆっくり移動する方がよっぽど危険だと思います」
「ウチも同感だけど、それは上に言っておくれ」
まるで歩行運連のようだなー、とリリアは心の中で溜息を吐いた。
「てか、マリアはどうしたー? 体調悪いのか?」
普段は静かにしろと言ってもしゃべり続ける彼女が今日は一言も話さない。
「おっと、またスルーか? おねーさん傷ついちゃうぞー」
ナターシャが言う。
「うーん、たぶん寝てますよ」
まじか、とリリアが漏らした。
「まあ、日の出前に出たからしょうがないっちゃしょうがないけどなー」
うとうとした状態でも歩行を続ける離れ業自体には驚かない。
「アイゼンフリューゲル、すぐに換装できればマリアも起きてたんだろうけどなー」
「拒否されましたからね」
基地につくまで使用することは許さない、と明言された。受け取りが完了するまで基地の所有物ではないというわけだ。言い分は分かるが、なんとも融通が利かない。
「にしてもさ――」
ちらっとコンテナを一瞥した。
「新兵器がレーザーとはびっくりだなー」
「ヴィクトリアで運用できるサイズにまで小型化してたんですね」
「実弾兵器が時代遅れになるのかー。なんか複雑な気分だなー」
「量産されるのはだいぶ先ですよ」
ソフィアように支給されたレーザー兵器は研究開発段階で、今回が最初の試作品だった。これから発生するであろうトラブルをクリアしていき、安定した運用が可能になるまで改良を重ねてようやく配備が検討される。実際に量産されるかはそのあとの話だ。
「どうせならアイゼンフリューゲルだけじゃなくて、ツヴィリングも一緒に配備してくれればよかったんだけどなー」
ライフルとショットガンを一つにまとめたツヴィリングは試験を経て制式採用されたものの指揮官クラスの機体にしか配備されていない。開発基地配属のシルム隊には無縁の兵装だった。
「うーん、基地の倉庫にありませんでしたっけ?」
「あれはユキが使ってた試作品だからなー。さすがに任務に持ってくわけにはいかないだろー」
二人が話をしている間に赤のフェンリル、もといマリアが少しずつ隊列を離れ始めた。
「マリア、おーい、起きろー」
足の動きがぎこちなくなる。
「マリア、迷子になっちゃうよ」
立ち止まり、周囲を見回すように頭部が動いた。
「……もう着いたのお?」
「まだ途中だよ。足元のコンテナ踏まないようにね」
「え、あー、うん」
状況を理解し、隊列に戻った。位置情報を確認する。
「まだ半分も来てないんだぁ」
「基地に着くのは昼頃の予定だぞー」
はぁー、と言葉にだしてマリアは溜息をついた。
「遅いよお、亀だってもっと速いよお」
亀はそんなに速くないよ、と真面目に返答するナターシャ。
「今日はパイロットが少ないから基地に戻ったら、ちゃんとしてないとダメだよ」
「あー! ユキは買い物かぁ」
「エリザとマリカもね」
「ウチはハーブティーとアロマ頼んどいたー」
一番ちゃんとするべきなのは隊長であるリリアだった。
「マリアは何頼んだんだー?」
「お洋服!」
「ナターシャは?」
「私は何も」
もったいない、と二人の声が揃った。リリアとマリアは一回り年齢が違うが精神年齢はそんなに離れていないようだった。結果ナターシャがこの隊をまとめるようになる。
「基地に戻ったらフライトユニットの換装と試運転しますよ」
「あー、分かってる分かってる」
「楽しみだなぁ」
あまりの緊張感の無さに不安を通り越してむしろ頼もしくさえ思えた。
いつも通り。
それはそれでとても大事なことだ、と自分を納得させてナターシャは操縦桿を握り直した。




