基地案内②
部屋の並ぶ廊下の先に食堂はあった。個室の五倍ほどの広さにテーブルとイスが置かれている。共用スペースのため、必要なものだけが並べられている質素なものだった。
「ここのルールは、実際に使う時に説明しようかしら」
中には入らずそのまま奥へと進んで行く。
再びの迷路。
ブリーフィングルームは廊下の行き止まりに面していた。
「ここがブリーフィングルーム。主に作戦会議や反省会に使っているの」
そこは食堂の半分くらいの空間だった。食堂と同じようにテーブルとイスが並べられ、作戦会議に使うであろう機材が置かれている。左側の壁にはドアがあり、シミュレーション訓練室という看板が下がっていた。
「ユキ、ここの目玉商品はこれよ」
キョロキョロ見回していたユキの視線はエリザの指差す方に向けられる。
「シミュレーション訓練室……?」
「さあ、入って入って」
そこには卵型のカプセルが四つ並んで置かれていた。他にはパソコンと、その横に書類が置かれている。
エリザがカプセルの側面に触れると、卵が割れるようにして中身が露になる。
「これは……コックピット?」
「その通り。戦闘を疑似体験できるのよ」
シミュレーション訓練とはこのことだった。もともとは開発した武器やパーツの性能・欠陥をデータ上で確認するためのものだが、今ではパイロットの訓練に用いている。
「隊長、準備はできましたか?」
「もう少し待ってね」
いつの間にかソフィアはパソコンに向かい、何かを入力していた。
「ユキちゃん、さっきのリアユニット、アイゼンフリューゲルなのだけど、データ入力がまだだからルーンと同じものに設定しとくわね」
「了解です。主兵装もですか?」
「それは入力済みだから大丈夫よ」
ライフルとショットガンを合わせた武器。実はリアユニットよりも気になっていた。
キーボードを叩く音が止まる。
「シートに座ってヘルメットをかぶってね」
言われたとおりにすると卵が閉じていく。それを見守っていたエリザが思い出したように口を開いた。
「マガジンの弾数は本物と同じだけど、マガジンの数は無限に設定されてるよ。あと、自分以外はみんな敵キャラだからね」
「了解です」
カプセルが完全な卵形に戻る。
エリザはソフィアの方に向かい、パソコンに視線を移した。
「隊長、ユキの訓練学校での成績、かなり優秀だったんですよね」
「そうよ。被撃墜数の少なさは歴代一位。ただ――」
パソコンの横においてあった書類を何枚かめくる。
「撃墜数の少なさも歴代一位。墜とさないけど墜とされない子なの」
「すごいんだかすごくないんだか…」
エリザは呆れたように笑っていた。ソフィアも目尻を下げている。
トントンとドアを叩く音が響いた。
「し、失礼……します」
ラウラが覗き込むように顔を出す。
「遅かった……ですか?」
「いいえ、いま始めたところなのよ」
「グッドタイミング」
エリザがキーボードを叩いていく。
「来たってことは参戦するんでしょ?」
「えっ? いや、私はただ……見に来ただけ、だから」
「ユキのためにもさ、先輩として訓練に付き合って、ね? はい、設定完了」
先ほどと同じように押し切られる形でラウラも参戦することになった。このシミュレーション訓練では他のパイロットも同じ空間で戦闘を行うことが出来る。もともとは編隊用のシステムだが、今では基地案内の恒例行事として練習試合のようにのみ使っているような状況だった。
「エリザ、少しはラウラの意見も聞きなさい」
「すいません、久しぶりの新人なので少しはしゃいでしまいました」
「いえ、エリザの、言うとおり……です」
ラウラはカプセルの方に歩いて行く。
「ただ、一番は、ちょっと……」
「じゃあ、一番はアタシが行きます」
ここまでくると順番は既に決まったようなものであった。
「ラウラ、二番手お願いできるかしら?」
「はい……ソフィアさん」
三人はそれぞれカプセルを開けてシートに座る。
「エリザ、ラウラ、一分で交代、一回きりよ」
了解、と二人の声は同時に響いた。




