基地案内①
ドアの向こうは案の定迷路だった。ジグザグに進んだ先の居住区はパイロット用の居住区で、階級ごとに場所が決まっていた。と言っても、パイロットは現在九名しかいないので廊下を挟んだ十部屋で事足りている。
「ユキちゃんの部屋はここよ」
案内されたのは格納庫から来て最も手前の右の部屋だった。ソフィアがカードキーを翳すとドアが開く。
「少し狭いけど、我慢してね」
ドアを開けた先は短い廊下になっており、横にトイレとシャワールームがついている。その先は六畳程度の広さの空間だった。ベッドとクローゼット、壁には時計と連絡用のタッチパネルがついている。まるで単身者向けのワンルームマンションのような間取りだった。トイレ・シャワー付きの個室とは十分すぎる設備だ。
「やっぱり湯船が欲しかったかしら?」
日本と温泉のイメージは切っても切れない。ユキは両手を顔の横でヒラヒラさせてすぐに否定した。
「いえいえ、シャワーで十分です。それにしてもすごく充実した設備ですね」
これには後から部屋に入ってきたエリザが答えた。
「この基地は国籍とか宗教とか変わり者とかごちゃ混ぜで配置されてるから、つまんないぶつかりを避けるためにそういう所はしっかりしてんのよ」
日本、ロシア、ドイツ、イタリア、フランス。今日話をしただけでこれだけの国籍がそろっている。文化も違って当然だ。
一通り説明を終え、食堂へ移動しようと廊下へ出ると、別の部屋のドアが開いた。前髪を編み込んだショートヘア。澄んだ青い瞳。人形のように整った顔立ち。軍服ではなくドレスを着るべきだと誰もが言うであろう清楚な女性だった。
ばったり出くわしたその人は驚いた様子で固まってしまった。
「あ、ラウラ。ちょうどいいところに来たわね」
エリザは固まる彼女の腕を引っ張り連れてきた。ユキは何となく自分と似た空気を感じ、これまでで一番まともに自己紹介をすることが出来た。
「あ、私は、ラウラ、ラウラ・コーレンベルク……です。ゲヴァルト隊です」
これでも中尉、と少尉のエリザが付け足す。
「ソフィアさん、基地、案内しているところ……ですか?」
「そうなのよ。よかったら部屋を見せてもらえないかしら?」
突然の申し出にラウラは顔を赤くしておどおどしだした。
「え、でも、散らかってる……から、それに、掃除…しないと」
困り切った表情を浮かべる彼女にソフィアが前言撤回しようとしたが、その前にエリザが追い打ちをかける。
「ユキのためにもさ。先輩として見本を、ね」
悪戯な笑みを浮かべる彼女にラウラは押し切られる形で首を縦に振った。
ユキの三つ隣の部屋。
「し、失礼します」
「あ、あの、あまり見られると……恥ずかしいので、少しだけ……ですよ」
ラウラの雰囲気通りぬいぐるみがそこら中に置かれている女の子らしい部屋だった。ほんのり石鹸の香りがする。基地内部の個室だというのに自由に使っているようだ。彼女の性格を考えると、個室のインテリアに基地側が干渉することは無いようだった。むしろ、自分らしくアレンジすることを薦めているのかもしれない。本当にこの基地は変わっている。
「もしかして、シャワー浴びたところだった?」
エリザが匂いに気づいた。ラウラは首を振って肯定している。
「ごめん、タイミング悪かったわね」
「ううん、気にしないで……いいよ」
ニコッと笑ってからソフィアの方に顔を向けた。
「これから、ブリーフィングルーム……ですか?」
「先に食堂を見てからね。時間があったらラウラも、ね?」
「は、はい。では……後ほど」
あまり長居しても悪いので早めにその場を後にした。




