恒例行事⑤
シミュレーション訓練を終え、ブリーフィングルームで自分の席についていた。
スクランブルでもないのにパイロットチームが勢揃いしている。
背もたれに体を預けるカレンが言う。
「で、この後は荷ほどきでいいのか?」
その質問は正面に座るマリカを超え、パイロットチームのリーダーへ向けられていた。
ソフィアは頬に指をあてて視線を巡らせた。
「そうね、一応勤務は明日からになっているから」
「だ、そうだ」
「わかりました」
背筋を伸ばしたマリカは短く答えた。
その横で、走り回っていたマリアがナターシャに捕まり、シルム隊の席へと回収されていく。
ひとりで席についていたリリアが挙手する。
「ウチら全員集めたのはなんでなんだー?」
ソフィアはゆっくりと立ち上がった。銀髪が揺れる。
「ちょっと話があるの」
その言葉に全員の視線が向けられる。
基地の存続が決定されたとはいえ、上層部からどんな通達が来るかわからない。この基地はそういうところだ。
「新しくマリカと彼女のグレンデルが来たけれど、それだけじゃないの」
「なにが来たんだー?」
「一つ目は移動用車両」
「まじか!」
リリアが珍しく声を張った。これで基地から直接応援に向かわなくて済む、とナターシャもマリアも歓声を上げている。
応援で移動の多いシルム隊としては下手な武装よりもよっぽど価値がある逸品だ。
「二つ目はアイゼンフリューゲル――」
ルビー色の瞳がユキを写した。
「……!」
黒椿がユニコーンだったときに装備していた試作品のリアユニットだ。ユキにしてみればツヴィリングに続いて二つ目の制式採用武装。感慨深いものがあった。
「フライトユニットの後継機として制式採用されたの。五つ入ってくるわ。これもシルム隊用かしら」
「わぁーい! 新装備だあ」
飛び跳ねようとしたマリアをナターシャが抑える。
カレンが言う。
「三つ目は? あたしらのは?」
「三つ目はあるのだけれど、ゲヴァルト隊用のではないの」
目を輝かせる彼女に苦笑いを浮かべて言った。
「じゃあ、また試作品か」
「そうなの。今回はイエーガー隊、というより私の武装よ」
「ヴァンパイアの?」
ソフィアの愛機は超長距離射撃を目的として開発されたレールガン搭載の特機。量産機とは一線を画す性能を持つ、射撃特化の機体に試作品の武装というのはこれまでになかった。
「ヴァンパイアというより、私の、ね」
「ああ、なるほど」
それなら納得だ、とカレンは両手を上げた。ソフィアの狙撃技術を利用して新兵器の性能を試そうということだった。一般兵程度では無理でもエース級なら扱える代物ということだ。
「以上の三つが届くの」
「あたしらには何もないのか」
「そうね……強いて言うなら、明日街の方へ買い物へ行くことになったくらいかしら」
「ほんとに!? よっしゃ!」
ガタッとイスが揺れ、横に座るラウラの体がビクッと跳ねた。
ちなみに、とソフィアが続ける。
「シルム隊はお留守番ね。あと、私も書類を片付けるから留守番。カレンも書類が終わらなければお留守番よ?」
「な、なんだと!? そんな話は聞いてないぞ!」
「あれほど書類は溜めないようにと言っておいたでしょう?」
ぐぬぬ、と唸り肩を落とした。
「シルム隊の人は欲しいものがあったらメモにまとめておいてね」
「はいよー」
「了解です」
「はーい」
リリア、ナターシャ、マリアは三者三様の返事をして、何を買おうかとさっそく思考を巡らせている。
出動する機会が多いわけではないが、基地を空けることができない彼女らが街に出かけることは滅多にない。軍からの支給品とは異なる、ひとりの女の子として買い物を楽しむことができる数少ないチャンスだった。
「カレンもメモにまとめておいてね」
「りょ、了解」
自業自得か、と観念して力を抜いた。
ソフィアがパンッと手を鳴らす。
「はい、話はこれで終わり。それじゃあ、マリカは荷ほどき――」
「了解」
「カレンは書類整理――」
「了解」
「リリア、ナターシャ、ラウラは機体の整備をして待機――」
「はいよー」
「了解です」
「……了解」
「ユキちゃんとマリアは別室でミーティング」
「了解」
「はーい」
「以上、解散」
全員が立ち上がった。
三々五々と散る中、ソフィアが呼び止めた。
「エリザ、ちょっと――」
「隊長、どうかしたんですか?」
人がいなくなったのを確認してから、小さな声で続ける。
「明日の買い物、マリカとユキちゃんの三人になるけれど、ユキちゃんのことお願いね」
エリザは首を傾げた。
「ユキですか?」
「ほら、彼女って人見知りのところがあるでしょう? ちゃんと見ててあげてほしいの」
ソフィアのほほえみにつられて彼女も笑顔で答えた。
「任せてください」




