恒例行事④
「エリザ、ユキちゃん、どこ見ているの?」
ソフィアの声で二人は同時に振り返った。
マリアの相手をしているうちにカレンとの戦闘が始まっていた。
「見るのも訓練なの」
「了解です」
グレンデル・ガンナーユニット同士の戦闘は案の定、撃ち合いの様相を呈していた。
カレンの戦法はラウラと似ている。相手の動きを観察し、先手を打つ。
「戦況は……姉御が優勢、ですかね?」
「そうねえ」
異なるのはその視点だ。
個を見るラウラと全を見るカレン。
相手個人の癖や行動パターンから先を読むラウラ。
相手の動きを把握し、経験から先を読むカレン。
いずれにしろ、相手をするには骨が折れる。
「マリカさん、やりづらそうです」
「そりゃ神経すり減らすよ」
「技術だけじゃなく精神力もパイロットの資質ということね」
仮想戦闘とはいえラウラとマリアを相手にしたのだから精神的に疲弊している。
「ああ、押されてきた」
マリカの攻撃の頻度が急激に減少してきた。
対ラウラ戦と同じ光景。
ユキはふと思い出した。
「ラウラさん、出てこないですね」
「自己反省中、らしいわ」
「いつものことなの」
彼女らしいといえば彼女らしい。ただ、だいぶ時間がかかっている。
「そんな悪い内容ではなかったと思いますが」
「ああすればよかったとか、あれは失敗だったとかを延々と頭の中で繰り返してベストな戦闘を組み立ててるって言ってた。終わるまで出てこないよ」
夜警のスリープモードといい、ラウラは自分の世界によく引きこもる。周りを観察する眼を持っているが自分のペースに従順だ。
「そろそろ出てくる頃じゃないかしら?」
三人の視線を集めるカプセル。
しかし、開いたのはその隣だった。
マリカが戦闘を終えた。
映像を見ると、胸部にカノン砲を受けたグレンデルが撃墜されている。
「カレンさんが勝ったみたいですね」
「さすが姉御」
ソフィアが体を屈めてユキを覗き込む。
「勉強になったかしら?」
「えっ、あ、はい……」
咄嗟に返事をしたが、実際学んだことと言えば己の力量の無さくらいだ。
ふふっと微笑みかけられた。
「あまり参考にならなかったかしら。どれも一朝一夕で身に着くような技じゃないもの」
「そ、そうですね」
ラウラの観察眼もマリアの超絶技巧もカレンの先見も一朝一夕どころか才能が無ければ身に付かないのではないのかと思う。
開いたカプセルからマリカが出てきた。疲れているが、表情はどこか明るい。
ソフィアが言う。
「お疲れ様、実機に慣れているからシミュレーション訓練機は操縦しづらかったでしょう?」
「機体が重いように感じました。ただ――」
最奥のカプセルが開き始めた。一瞥して続ける。
「それ以上に皆さんと実力差がありました」
立ち上がったカレンが後ろから彼女の肩を抱き寄せた。
「そんな謙遜するなよ。最初はみんな思うように動かせないもんなんだ」
「いえ、実機でも結果は同じだったと思います」
「カレン中佐もラウラ中尉もマリア軍曹も、私より強い」
マリカはカレンたちに体を向けて姿勢を正す。
「噂以上の実力に感服いたしました」
「噂なんてどれも信じるに値しないもんさ」
カカッとカレンは笑った。
その後ろで、ソフィアは表情を変えずにマリカを見ていた。
僻地の開発基地のパイロットに負ければプライドが傷つくものだ。まして、彼女はセカンドライン、エースパイロットの登竜門となる基地配属のエリートで実力も十分にある。左遷された理由はどうであれ、もっと感情的になるものではないのか。
疑問を残しつつもマリカの基地案内は終わった。




