恒例行事③
ソフィアたちがシミュレーション訓練室に着いたとき、そこにはカレンの姿しかなかった。
「お、イエーガー隊も参加するかい?」
彼女は点滅するカプセルの横でイスに座り、仮想戦闘の様子を見ていた。
「始まったばっかりだぞ」
「先鋒はラウラなのね」
ソフィアが画面を覗き込んだ。エリザとユキがそれに続く。
色違いのグレンデル・ガンナーユニットが撃ち合いを広げている。
戦況は一見して均衡状態だった。
「さすがセカンドライン配属のパイロット、シミュレーションでもいい動きしてる」
「ラウラさんも負けてないですよ」
「相変わらず立ち上がりは慎重ね」
ラウラの攻撃は控えめで相手の動きをじっくりと観察しているようだった。
「んじゃ、私もそろそろ準備するか」
カプセルへ入ろうとカレンは立ち上がった。
「姉御、姉御はトリですよ」
「ん? そうだな……んじゃ、誰がやる?」
ソフィアたちはお互いに顔を見合わせた。
ソフィアの愛機、ネローザのレールガンはシミュレーションで避けることは不可能。もはやチートのため戦いにならない。
ユキの愛機、黒椿はデータが未登録。
「アタシがやります」
消去法でエリザが抜擢された。
「装備はジュアロンスーでいい?」
「それで!」
エリザがカプセルに手をかけると、その横を小さな影がすり抜けて行く。
「あたしがやるう」
マリアがコックピットに滑り込んでいた。
「あ、こら、いつの間に!」
「早いもの勝ちだよお」
彼女は手を振ってカプセルが閉じる。まるで遊園地ではしゃぐ子供だ。実際に子供なのだが。
ブリーフィングルームの方にはリリアとナターシャも来ていた。
保護者のような二人は席に座って遠目で見守っている。
「シルム隊も来たんだ」
基地の襲撃以来シルム隊への応援依頼は停止していた。基地防衛を担当していたゲヴァルト隊が機能を回復するまでその代理を務める形になっている。
問題は、シルム隊は夜警が出来ないことだ。チームとしての実力も、個人の技術も十分。ただ、マリアの夜がとても早い。夜中まで起きていられないし、何よりそこまで起こしておくのは可哀そうだと全員の意見が一致していた。
シミュレーション訓練機に乗り損なったエリザが渋々元の位置に戻る。
ユキが耳打ちする。
「カレンさんが言ってたジュアロンスーってなんですか?」
「ルーンの爪のことよ。ちなみに、ユキが今度使うのはジュアロンサン」
「爪の名前だったんですね。あれの正式名称、初めて知りました」
試作品の多いこの基地では名前の知らない武装やパーツは多い。エリザの爪もそれが正式名称だと思っていた。
「たしか中国語……韓国語だったかな?」
「あいまいな記憶ですね」
武装の名前は開発した国の言語が当てられる。知らなくても無理はない。
あ、とカレンの声が聞こえた。
「ラウラは引き分けか」
「時間切れね」
二人の間からユキが覗き込むと甚大な被害を受けたグレンデルが映されていた。
その色は標準色のグレー。
「ラウラさん、やっぱり強いなー」
「ユキ、来た時のこと思い出した?」
「うっ……」
以前ラウラと仮想戦闘したときのことがユキの脳裏をよぎった。戦いが長引くほど徐々に追い詰められていく重圧はシミュレーションとはいえトラウマものだ。
「ほら、次はマリアだよ」
「あ、はい」
嫌な思い出を記憶の彼方にしまい込み、映像に目をやった。
「なんというか、マリアちゃんは見てる方が冷や冷やする戦い方をしますね」
ユキはマリアの戦法を表現する言葉が見つからなかった。
奇想天外、自由奔放、縦横無尽、どれも違う気がする。
とりあえず言えるのは訓練学校で習うようなものではないということだ。
エリザが声を小さくして言う。
「実機だともっとすごいわよ、マリア」
「これ以上ですか? 全くイメージ出来ないですね」
ヒソヒソと話していると、目の前でカレンが立ち上がった。
「じゃ、私もそろそろ準備するかな」
「姉御、まだ早いんじゃないですか?」
ポンとエリザの金髪を撫でた。
「シミュレーションでマリアを止められるのはレールガンくらいだ」
カレンがカプセルの中へ入った。
映像に目をやるとその言葉の説明をするように、戦況が変化していた。
マリカが翻弄されている。
そしてそのまま、グレンデルの撃墜という形で戦闘は終了した。
マリアの実力とカレンの先見に感嘆していると、卵型をしていたカプセルが半分に割れた。
「あたし、だいしょーりっ!」
マリアが中から跳び出してきた。赤いツインテールがその後を追うように跳ねる。
「マリアちゃんおつかれ、強かったね」
「そうでしょお」
片手を腰にあて、ピースをした。
横からエリザが言う。
「あぶなっかしい戦い方だったけど」
「そんなことないよお。作戦通りだったもん」
「あれって作戦だったんだ……」
マリアにしか実行不可能という点では、敵の意表を突くいい作戦かもしれない。
「ナターシャたちにも話してくるねえ」
「おお、いってらっしゃい」
マリアはブリーフィングルームへと走っていった。
向こうが一気に騒がしくなる。
嵐のような子だ。




