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義体の女神  作者: 鈴木亜紀
第二章
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恒例行事②

 ヘルメットには砂漠の映像が映されていた。

 障害物となるような建物も丘もない砂砂漠。

 機体はグレンデル。ライフルにアイギス、ガンナーユニットを装備している。愛機と同じだ。

 シミュレーション訓練機は操縦性に違和感が多少あるが再現性はかなり高い。

 特に加減速や衝撃の振動は本物と遜色なかった。

 実機との誤差を確認しているとアラートが鳴り響く。

 愛機と同じグレンデル・ガンナーユニット。違うのは若草色をしていることだ。

「……ラウラ中尉か」

 パッと光を放った。

 カノン砲の見慣れた光だ。

 射程外からの砲撃。開戦の号砲だった。

 マリカは砂煙を巻き上げて接近する。

 ラウラは立て続けにカノン砲を放っていた。

 十分な距離があるため重厚なグレンデルでも避けることができる。

 マリカは回避行動をとりつつトリガーの握りを確認していた。勝負はもっと接近してからだ。

 まっすぐ近づいていく。

 同機同性能の二機は同時にロックオンした。

 互いの火砲が交差する。

 ラウラもようやく動きだした。

 ファントムフォックスを主体にライフルとカノン砲を織り交ぜる。

「……固い」

 ラウラはカノン砲は回避し、他はアイギスで防いでいた。なかなか隙を見せない。

 並のパイロットであればアイギスに視界を遮られカノン砲を食らうものだ。

 それだけでなく、射撃の精度も高い。連射性の高いファントムフォックスはもちろん、カノン砲すら横を掠めていく。

 いい勘をしている。それとも経験から来るものなのか。

 ただ言えることは、開発基地でくすぶっているべき資質ではないということだ。

 一進一退の攻防が続いた。

 直撃はないが損傷が増えていく。

「っ!」

 カノン砲がアイギスを引っかけた。

 衝撃で激しく体が揺さぶれる。

 その隙を縫うようなライフルが腰部に命中した。

被弾した箱型マガジンをすぐさまパージし、ステップを踏む。

 爆発を横目にマリカは舌打ちをした。

 ファントムフォックスの沈黙。

これで戦況が動いた。

 一定の距離を保ったままの撃ち合いの中でマリカの被弾率が徐々に上昇していった。

 新たな機体の異常を伝える警告音が絶えず鳴り続ける。

 被弾した装甲が剥離し、機体の挙動にも影響が出てきた。

 撃墜まで時間の問題だと思われたその時、画面が切り替わった。

 戦闘終了を告げる文字列。

 グレンデルも姿を消していた。

「時間切れ……?」

 機体の損傷も残弾も回復している。

 次の戦闘の気配を感じ、マリカは操縦桿を握り直した。

 予想通り、アラートが新手の出現を告げた。

 真っ赤に染められたフェンリル。ライフルにアイギス、フライトユニットを背負い、腰部にはミサイルポッドを装備している。

 この機体は既に目にしたことがあった。

「次はマリア軍曹か」

 シミュレーション訓練機では音声通信が閉じていてよかった、とマリカは心の中で呟いた。

 マリアはスラスター全開で接近してくる。

 カノン砲を物ともせず更に加速し続け、ファントムフォックスの射程まで止まらずに入ってきた。

 接近を許すまいと斉射すると、方向転換、グレンデルを中心に旋回して回避運動をとった。

 旋回の円が徐々に縮まっていく。

 マリアはライフルを撃つでもなく、ただ接近してくるだけだった。

 その静けさに妙なプレッシャーを感じる。

 反撃する余裕がない、というわけではなさそうだ。

 複雑な挙動で回避するその姿は、戦闘を楽しみ狂喜乱舞しているようにさえ見える。

 マリアが初めてトリガーを引いたのはファントムフォックスを紙一重で躱している真っ最中だった。

 グレンデルとは正反対、背中を向けたままミサイルポッドを連射した。

 弾丸を追うように放たれたミサイルは大きな弧を描いてマリカのもとへと殺到する。

「っ!」

 ライフルとファイアフォックスで次々と撃ち落していった。

 弾幕が薄くなった瞬間、マリアはフェンリルを駆り、急接近していた。

「甘いっ!」

 カノン砲が火を噴いた。

 目の前で爆炎が広がる。

「……外した!?」

 アラートが導く方向に機体を捻る。

「――!」

 アイギスがフェンリルのファルシオンによって弾かれた。

 赤い機体が視界を埋め尽くす。

 その隅にはライフルが映っていた。

「しまっ――」

 衝撃と同時に画面が真っ暗になった。

 マリカは大きく息を吐く。

「滅茶苦茶な戦い方……」

 マリアはミサイルポッドのホーミング力を最大限利用して弾幕を薄くし、カノン砲をアイギスで防いだ。その際に、裏に仕込んだファルシオンを抜き取り、ライフルを左手に持ち替えて爆風に紛れて更に接近してきた。

 彼女の超絶技巧が可能とする戦い方だ。

 敗因を考えている内に機体の整備が終わった。

「次は――」

 シアン色のグレンデルだった。

「カレン隊長」

 小隊の隊員ですらあの実力。

 エース級と遜色ない実力。

 最前線で活躍していないのが不思議なほどの技術を持っている。

 それなら、その隊をまとめる者の実力はどれほどのものか。

 期待と緊張で鼓動が速くなる。

 大きく深呼吸。

 神経を研ぎ澄ました。


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