恒例行事
砂漠の真ん中に建てられた小規模な基地。
背の高い司令塔とライトグレーの三階建ての建物が二棟。その正面に発着場がある。
いかにも軍らしい無骨な建物群。一見してヴィクトリアが収容されている様には見えない。
それがユーアイン・ユーラシア第十一開発基地だった。
アルビナの部屋を後にしたカレン達は地下迷宮、もとい地下通路を進んでいた。
「たしか、マリカはヴィクトリアで来たんだよな?」
「はい、グレンデル・ガンナーユニットです」
「同じ機体か」
格納庫には行かなくていいな、とカレンは行き先を変える。
「じゃ、まずは居住区に行くぞ」
彼女の横にマリカ、その後ろにラウラが続く。
「居住区と言っても、実際はパイロットチームの部屋があるだけなんだけどな」
「役職ごとに分かれているわけですね」
「ま、そんなとこだ。パイロットとメカニックは地下に、守衛は地上に居住区がある」
「そういえば、地上の建物は一部倒壊していましたが、何かあったんですか?」
「少し前にレジスタンスの襲撃を受けてそのまま。物資が足りなくて復旧が終わってないんだ」
レジスタンスの襲撃を受けたのはこの基地だけではない。前線に近い基地から優先的に物資が送られるため、前線から離れた開発基地には未だに十分な量が届かない。
セカンドラインにいたマリカには考えられない環境だ。
「予算少ないから不便なところは多いぞ」
「ヴィクトリアの装備はかなり充実していましたが」
「一応、開発基地だからな。半分以上は問題のある試作品だ」
予備のパーツは多いけど、とカレンは続けた。
「それにしても、かなり入り組んだつくりになっていますね」
「防犯のためだ。道覚えるまで一人で出歩くなよ、迷子になるから」
「了解です」
「もっとも、基本的に三人一組で動くから大丈夫だけどな」
「案内図はないのですか?」
「そういうのは無いから頭で覚えるしかないんだ。基地のこともその都度説明するから今回は普段使うとこだけ回るから」
話をしている内に居住区に到着した。
カードキーを翳して自室へと入る。
ドアを開けた先は短い廊下になっており、横にトイレとシャワールームがついていた。その先は六畳程度の広さの空間で、ベッドとクローゼット、壁には時計と連絡用のパネルがついている。まるで単身者向けのワンルームマンションのような間取りだった。
既に荷物は届けられており、箱が無造作に積み重なっている。
「意外と荷物多いな」
「個室だと聞いていたので出来る限り持ち込みました」
「ま、自分の部屋は好きに使っていいんだけどな」
チラッとラウラの方を見た。
「ラウラなんて部屋中ぬいぐるみで溢れてるし」
彼女は黙ったまま目を反らした。ちょっと恥ずかしがっている。
「あ、ラウラは人見知りだから、こっちから話しかけないと心はもちろん、口も開かないぞ」
「分かりました」
ラウラと目が合ったが、直ぐに反らされた。
心を開くまではまだ時間がかかりそうだ。
「案内が終わったら時間があるから荷解きはその時にな」
「今日のタイムスケジュールを伺っていないのですが、この後の予定は?」
「案内が終わったら、とりあえず機体の整備くらいだ。仕事は明日から」
そうですか、と言ったマリカの語尾には疑問符がついていた。
その疑問ももっともだな、とカレンが続ける。
「前線の基地に比べると規則が緩いんだ」
「自立心が重要なわけですか」
「そんなとこだ。夜警は多いし、出動も少なくないけど」
「こんなところまでリーゼが来るのですか?」
「敵はリーゼだけじゃないからな」
その意味を理解したマリカは相槌を打つだけで追及はしなかった。
居住区は表札がついていないので、誰がどの部屋かを説明するだけですぐに移動した。
「イエーガー隊とはもう会った?」
「格納庫でお会いしました」
「じゃあもう顔合わせは終わりか」
三小隊という規模の小ささのおかげであいさつもすぐに終わった。
「次はブリーフィングルームに行くぞ。パイロットチームはそこか格納庫にいることが多いから」
「作戦の打ち合わせですか?」
「いや、ただ待機場所になってるだけだ。それに――」
言い掛けた口を閉じる。
「ま、詳しいことはついてから話すさ」
居住区からブリーフィングルームまではそう遠くない。ジグザグと廊下を進み、食堂の横を通り抜けて直ぐについた。
「ここがブリーフィングルームだ」
そこは食堂の半分くらいの空間だった。テーブルとイスが三列並べられ、作戦会議に使うであろう機材が置かれている。左側の壁にはドアがあり、シミュレーション訓練室という看板が下がっていた。
「私達の席はそっち」
向かって左の席を指差した。
「中央はイエーガー隊、右側はシルム隊。席が決まってるわけじゃないが、いつもその席になるんだ」
席を指していた人差し指がスーッと向きを変える。
「そしてここがシミュレーション訓練室。パイロットチームがここを使う理由がこれだ」
中に入り、卵型のカプセルを次々と割っていく。
コックピットを模した中身が露になった。
「これは一体なんですか?」
「シミュレーション訓練機だ」
それはさっき聞いたのだが、上官にそれを言う事は出来ない。
「戦闘を、疑似体験……出来る」
ラウラがようやく重い口を開いた。
カレンがニヤリと笑ってから続ける。
「リーゼだけじゃなくヴィクトリアとも戦えるぞ。操縦しづらいけどな」
「開発基地ならでは、ですね」
「挨拶がてら腕試ししようってことだ」
カレンに促されるままマリカは疑似コックピットに乗り込んだ。
「ほれ、ラウラもだ」
彼女は少し顔を歪ませたが、大人しく二つ目のカプセルに入った。
「残りはやってみてのお楽しみだ」
「了解です」
ヘルメットをかぶったマリカの口元が緩んだ。




