↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義体の女神  作者: 鈴木亜紀
第二章
50/62

格闘訓練②

 トレーニングルームは黒いマットの敷き詰められた部屋だった。

 手前の棚にはナイフから銃剣、槍、トンファーなど使うかも怪しい武器が並べられ、奥にはジムのような大型のトレーニングマシンやルームランナーなどが競り合うように置かれている。

「こんなとこあったんですね」

 部屋に入ったユキはポツリと呟いた。

「アタシはたまに使ってる」

 そう言ってエリザが掴んだ銃剣はゴム製で、年季が入っているせいか今にもひびが入りそうだった。

「と言っても、筋トレがメインだけどね」

 トレーニングマシンの方は錆びもなく、油も差してある。

 エリザの引き締まった体はここでつくられたのだな、とユキは改めて彼女の方を見ると既に準備運動を始めていたので慌てて参加した。

 エリザは全身の筋肉と関節をひとつひとつ確認するようにゆっくりと体を伸ばしていく。

 趣味の絵画といい、意外と細かい性格をしている。

「エリザさんって体柔らかいですね」

「そう? 硬いと怪我しやすいから」

 息を吐きながら体をペタッと折り畳んだ。体の柔らかさには自信のあったユキも真似できない。

「柔軟、手伝ってあげよっか?」

 その言葉の真意が彼女のサファイアの瞳に垣間見えたので即丁重に断った。が、言い終わる前に前屈するユキの背中にエリザがのしかかった。

「遠慮するな遠慮するな」

「痛い! いたいイタイイタイっ……!」

 ユキの声が悲鳴に変わる前にエリザはホールドを解いた。

「期待してたでしょ?」

「警戒してました!」

 涙目で叫ぶ。

「絶対やってくると思いましたよ」

「そう思って不意打ちにしたのよ」

 ビシッと親指を立てた。

 ユキは先行きに不安を感じ、目を落とす。

 今日の目標は一矢報いること、と心のノートに刻んだ。

「ユキ、学校の訓練はどうだった?」

「中の下くらいの成績でした」

「鍛え甲斐があるわね」

 何度も言いますが、と前置きをしてからユキが言う。

「優しく教えてください」

「文字通り、手取り足取り教えてあげるわ」

「首まで取りそうで怖いです」

 エリザは無言でニヤッとした。

 怖い。とても怖い。この上なく怖い。

 柔軟を終えたエリザは立ち上がり、ユキに手を差し伸べた。

「怖がり過ぎ」

 手を借りて立ち上がる。

「これから何をされるのかと思って」

「それはもちろん――」

 ユキの体がふわりと持ち上がる。

「愛のムチ!」

 バタン、と背中と床がくっついていた。

 何が起きたのか、ユキの思考が追いつく前に体が反転、背中で右腕を押さえつけられる。

 やばい、と思った時には手遅れだった。

 上に覆いかぶさるエリザは左の足と膝でユキの左手と首を押さえつける。

「んー! んーっ!」

 声にならない声をあげて、唯一動く左手首を動かしペチペチとマットをタップする。

 一拍置いて拘束が解かれた。

 先に口を開いたのはエリザだった。

「まるで素人ね」

 不意打ちなんて卑怯だ、なんてことを言うほど子供ではない。

 これはスポーツではないのだ。ルールも無ければ卑怯もない。

 なにより、気を抜いていた。相手はあのエリザだというのに油断していた。

 ユキは立ち上がり、エリザを正面に見据える。

 半身に構え、緩く左手を突き出した。

 ふたりの距離は一歩半。

 踏み込めば攻撃が届く。

 エリザは両手を下ろして無手のまま。

 攻撃を誘っているのか。

 それともこれが本来のスタイルなのか。

 仕掛けてくる気配はないが、もう油断は出来ない。

 意を決して踏み込んだ。

 左手を突き出す。が、弾かれた。

 もう一方の手がそれに合わせたようにユキの顔面に迫る。

 ユキは上半身を反らし、後ろにステップを踏みながら両手で防いでいく。

 堰を切ったようにエリザの反撃が始まった。

 息継ぎを許さない連続攻撃。

 それでも打撃は辛うじて避けられた。

 エリザが一方的に攻め、ユキはひたすらいなす。

 すぐに壁際まで追いつめられるが、横に飛び退いて後退を続けた。

 エリザの動きは少しずつ変化していた。

 細かなフェイントが増え、いなしきれない事が増えてきた。

 それに足技まで加わる。

「っ!」

 防ぎきれないと手を出すが、それにカウンターを合わせられ更にピンチを招く。

 そうこうしている内に再び壁まで追い込まれた。

 逃げようとするとエリザの足技がそれを阻む。

 突き出した左腕を掴まれた。

 組手が始まってから、初めて掴まれた。

 エリザは掴んだ腕を捻りあげ、バランスを崩したユキの足を払って床に押し倒した。

 そのまま押さえ込む。

 デジャブだ、と思いながらユキはタップした。

 エリザは押さえ込みを解き、床に転がるユキに手を差し出す。

「アタシの勝ち」

 ユキは素直に手を借りて立ち上がり、彼女についていくように中央へと歩き出した。

 その間、頭の中では今の組手の敗因を考え、対策を練る。

 頭をフル回転させる。

 客観的にエリザの動きを分析する。

「……」

 が、特に思いつかなかった。

 根本的な実力差を覆せるほどの奇策などあるわけもない。

 とどのつまり、出たとこ勝負だ。

 部屋の中央まで来るとエリザは振り返って構えた。

 変わらず無手のままだが、雰囲気が変わった。

 彼女の教育方針は習うより慣れろということらしい。

 ユキも覚悟を決めて構えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。